当院の硝子体手術の特徴
- 網膜硝子体手術は、眼科手術の中で最も高度な技術を要する手術と言われています。また、扱う領域が神経の膜である網膜である事から、治療が遅れると後遺症が大きくなる疾患が多く、また手術中の偶発症への対応も経験が極めて重要な手術です。
- 当院では、大学病院や総合病院で多数の難症例を治療してきた院長が、全ての手術を責任もって執刀いたします。また、使用している機器も大学病院レベルで使用されている高性能硝子体手術機器であるALCON社コンステレーション®を用いて、眼への負担の少ない25ゲージ/27ゲージの極小切開硝子体手術を行っています。
- 当院では3D手術支援システム(NGENITY®)を導入しており、通常の光学顕微鏡と比較して極めて解像度の高い映像で手術を行うことで、精度の高い手術を追求しています。
また光学顕微鏡と比較して弱い光での手術が可能であり、手術中の眩しさや光障害リスクの低減が可能です。 - 局所麻酔で痛みはほとんどなく(圧迫感はところどころで感じます)、手術時間は病気と程度によりますがおおむね30分から1時間程度です。
硝子体手術とは
眼の奥には硝子体という透明なゲル状の物質が詰まっており、光を感じる神経の膜である網膜と、その網膜の神経線維が束って脳につながる視神経があります。物を見るということは、網膜まで伝わった光が視神経を通じて正しく脳まで伝わることで感じられています。そのため、硝子体や光を感じる網膜に病気が起こると視力が低下します。
硝子体手術は網膜や硝子体の病気に対して行う手術治療です。白内障がある方は、白内障手術を同時に行います。眼に麻酔をした上で、強膜(白目)に3カ所前後、細い針くらいの太さの小さな穴を作り、そこから器具を挿入し、光で照らしながら、眼内に存在する硝子体と呼ばれるゼリー状の組織を硝子体カッターと呼ばれる器具で細かく切除しながら吸引除去しつつ、眼内容積を保つため灌流液に置き換えます。
硝子体を除去した後に、病状に応じた網膜の処置を行います。この処置は病気によって異なり、網膜前膜の場合は、網膜表面にある網膜前膜を除去します。黄斑円孔や黄斑円孔網膜剥離、近視性牽引黄斑症などでは、網膜を伸びやすくするために網膜の表層にある内境界膜を剥離する処置を行います。増殖糖尿病網膜症や硝子体出血の場合は、網膜にレーザーを行い網膜の状態の安定化をはかります。裂孔原性網膜剥離の場合は、眼内の灌流液を空気に置き換えて網膜の位置を元に戻したあとに、原因となった裂孔の周囲にレーザーを行い焼き固めます。難治性が予想される場合は、眼の周りにシリコンバンドを巻き付けるバックリング処置を追加で行うことがあります。いくつかの病態が組み合わさっているケースもあるため、これらの処置を複合的に行うこともあり得ます。
手術終了時、疾患により眼の内側から網膜を押さえるため、空気や膨張性のガス、シリコンオイルを眼内に入れて終わることがあります。その場合は術後にうつ伏せを行う必要があります。シリコンオイルを入れた場合は将来的に除去手術が必要になります。
3D手術支援システム
当院では最先端の3D手術支援システムを使用した手術を行っています。3D ビデオHDRカメラで撮影した映像をハイスピードで最適化し、デジタル高解像度3D 4Kモニターと専用の偏光メガネによって、繊細な眼底組織をこれまでになく鮮明で奥行きのある表現が可能となりました。
そのため、これまでより精密な操作が可能となり、手術精度の向上が期待できます。また光学顕微鏡と比較して、低光量でありながらも高度な映像処理が可能であり、手術中の網膜に対する光の悪影響(網膜光毒性)を減らすことができます。
硝子体手術を行う疾患について
網膜前膜
網膜の中心部である黄斑部に線維性の膜が癒着し、網膜に皺が生じ、視力の低下が起こり、物が歪んで見えてしまう病気です。放置すると徐々に視力が低下したり、歪みが悪化したりすることが多いため手術を行います。しかし、症状が進んでからの治療は後遺症も大きくなるため、症状が出てきた場合は早めの手術が望ましいと言われています。手術後は徐々に時間をかけて歪みが改善することが期待できますが、歪みが大きくなってから治療を行った場合は発症前まで完全に回復することは稀です。
・正常黄斑部
・網膜前膜(矢印)
黄斑円孔
硝子体の牽引により黄斑に穴が空いてしまう病気です。症状としては歪み、視力低下が起こり、進行とともに悪化します。初期では自然治癒するものもありますが、進行すると自然閉鎖は期待できません。放置すると徐々に大きくなり、視力低下や歪みが強くなるため、黄斑円孔を閉鎖させるために手術を行います。閉鎖すれば歪視の改善や視力回復が期待できます。しかし進行してからの手術の場合は、発症前まで完全に回復することは稀です。そのため、黄斑円孔が判明した場合は早期に手術を行います。大きい黄斑円孔の状態により、閉鎖まで複数回手術を要する場合や、最終的に閉鎖が得られない場合があります。また、発症からの時間や円孔の大きさによっては手術後に視力が改善しないこともあります。
・黄斑円孔手術前
・手術後 黄斑円孔は閉鎖した
硝子体出血
網膜上の血管が切れて硝子体中へ出血が起こるもので、種々の網膜血管疾患(網膜静脈閉塞症、増殖糖尿病網膜症など)や網膜裂孔などで起こります。眼底観察ができないことが多く、原因診断が難しい場合があります。手術以外の方法としては自然吸収を待つことがありますが、原疾患診断や治療の遅れから予後悪化に繋がる可能性があるため、眼底が見えない場合には原因となった病気の診断を兼ねて早期に手術を行う事が多い病気です。
裂孔原性網膜剥離、黄斑円孔網膜剥離
網膜裂孔や黄斑円孔を生じ、そこから眼内液が網膜下に流れ込んで網膜が剥離する疾患です。物を見る中心である黄斑部に剥離が進行すると、高度の視力低下を生じます。手術以外の治療法はなく、放置すると失明します。手術を行い網膜が復位しても、剥離していた部位の網膜機能低下の後遺症が残ります。一回の手術で治らず、複数回手術を要することもあります。ガスやシリコンオイルを注入するため、術後うつ伏せが必要になります。
増殖糖尿病網膜症
糖尿病網膜症が進行し、網膜上に新生血管が生え、そこから増殖膜と呼ばれる膜が網膜上に生じます。硝子体出血や牽引性網膜剥離を引き起こし、視力が低下します。新生血管は虹彩や隅角にも発生することがあり、血管新生緑内障という難治性の緑内障を併発することもあります。増殖性変化が生じる前までの段階であれば、レーザー治療のみで改善することもありますが、増殖糖尿病網膜症まで進行した場合は手術以外の治療法はありません。進行性の病態であり、放置すると高率で失明します。
黄斑浮腫(糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、白内障術後など)
糖尿病、網膜血管病変などが原因で黄斑部に浮腫が生じ、視力低下をきたす疾患です。硝子体手術により硝子体と網膜の癒着を解除して牽引力を無くすことにより、浮腫の軽減をはかります。浮腫が軽減しても網膜が悪くなってしまっていると視力は回復しません。手術以外の方法は、経過観察、薬物療法(注射・内服など)ですが、通常はこれらの治療に反応が悪い場合に手術を行います。
近視性牽引黄斑症
眼球の長さが長くなる強度近視に起こる黄斑合併症で、眼球の伸びに網膜の伸びが追いつかず、網膜が裂けたり(網膜分離)、網膜剥離が起こったりします。更に進行すると黄斑円孔を生じてそこから網膜剥離が広がる黄斑円孔網膜剥離へ進行します。最終的に失明する可能性もあります。自然治癒することはほとんどなく、治療法は手術以外ありません。
・網膜分離+網膜剥離
・黄斑円孔網膜剥離(矢印は黄斑円孔)
水晶体脱臼・落下、眼内レンズ脱臼・落下
水晶体や眼内レンズが脱臼(ずれてしまうこと)したり、眼内に落下したりするものです。屈折度の変化による視力低下が起こります。治療は手術以外にはなく、眼内レンズ縫着術を要することがほとんどです。放置すると網膜を傷つけ網膜剥離を生じることがあります。
この治療に伴う合併症とその対応について
- 麻酔によりアレルギー、球後出血(眼球の後ろでの出血)などの可能性があります。適宜必要な処置を行いますが、手術中止や全身的な加療が必要になる事があります。
- よく起こりますが軽度の合併症として、結膜下出血、炎症、角膜浮腫、疼痛があります。
- 眼圧上昇:術後眼圧上昇することがあり、必要に応じて眼圧下降薬を使用します。
- 創閉鎖不全:傷口は縫合して閉じますが、閉鎖が悪いことがあります。眼圧低下を伴うことがあります。追加で縫合することや、灌流液や空気注入を行うことがあります。
- 虹彩損傷:手術中の操作により、虹彩が損傷する事があります。術後羞明を生じる可能性があります。
- 駆逐性出血:極めて稀(0.5%程度)に手術中に網膜の下の脈絡膜で大出血が生じる事が報告されています。予測が不可能で、確実に予防する方法もありません。これが生じると、視力を失う場合もあります。
- 細菌性眼内炎:傷口から細菌が眼内に入ると、眼内の感染症による失明の危険が生じます。過去の報告では0.1%程度生じる事が知られています。手術の前後の抗生物質の点眼、手術中の抗生物質の点滴、手術後の抗生物質の内服などで予防に努めます。
- 網膜剥離:一般的に、硝子体手術後0.5-1%程度の頻度で網膜剥離が生じると報告されています。網膜剥離が生じた場合は、それに対するさらなる手術治療が必要となります。裂孔原性網膜剥離や黄斑円孔網膜剥離の場合は、初回手術での復位率は80-90%であり、再剥離を生じた場合は再手術が必要になります。
- 水疱性角膜症:角膜の透明性を保つ角膜内皮細胞が減少し、角膜が常に浮腫を起こす合併症です。治療には角膜移植が必要になる事があります。
- 眼内レンズ偏位、脱臼:術後に眼内レンズの位置がずれることがあり、特に眼内レンズ縫着術を施行した場合に生じるリスクが高めです。ずれの程度により再手術が必要になります。
- その他の重大な合併症として、手術と反対の眼に炎症の病気が生じる交感性眼炎、手術後に眼底の動脈が詰まって失明する網膜動脈閉塞症が報告されています。交感性眼炎に対しては大量のステロイド点滴で、網膜動脈閉塞症に対しては血栓溶解療法で治療します。これらの合併症は極めて稀であり、原因もよく分かっていません。
術後の注意点について
注意点は白内障手術とほぼ同じですが、眼の中に空気や膨張性ガス、シリコンオイルを入れた場合は、姿勢の制限を守って頂く必要があります。姿勢や期間に関しては、眼の状態により患者様ごとに異なります。
1.手術の時に空気やガスを入れることがあり、姿勢保持が必要と聞きました。どれくらいの期間で、どういった姿勢をする必要がありますか?
- 硝子体手術の時には硝子体を除去し、硝子体があった場所は水に置き換わりますが、病気によっては手術後に網膜を押さえるために、手術の最後に眼の中の水を空気やガス、シリコンオイルといった浮力が働くものに置き換えることがあります。
- 手術後に保持していただく姿勢や期間は、病気によって異なります。例えば黄斑円孔であれば、うつ伏せをしていただく必要がありますが、孔がふさがるまでの期間は孔の大きさや近視の程度によっても変わります。小さくてすぐふさがるようであれば1日で済みますが、大きい黄斑円孔や強度近視の場合は孔が閉じづらいため数日程度うつ伏せを頑張っていただく必要があることもあります。(当院ではなるべくうつ伏せをしなくても閉鎖を得られるように工夫しており、うつ伏せ不要な場合もあります)
- 裂孔原性網膜剝離の場合は、原因となった孔の位置によって変わります。一般的には、手術当日は3時間程度はうつ伏せをしていただき、その後は孔の位置によって横向きや起きた姿勢を主に保っていただくことが多いです。
2.空気やガスなどを入れた場合、抜く必要はありますか?
- 空気やガスなど気体を入れた場合は、自然に徐々に抜けていき、1~2週間で完全に抜けて眼の中で作られる水に置き換わりますので、抜く必要はありません。
- シリコンオイルを入れた場合は、自然に抜けることはありませんので、1か月後以降で網膜の状態が落ち着き、押さえる必要がなくなった段階でシリコンオイルを抜く手術を行います。
3.黄斑前膜(黄斑上膜、網膜前膜、網膜上膜)で手術が必要と言われました。手術をすれば歪みはなくなりますか?また、再発することはありますか?
- 黄斑前膜は、網膜の歪みがそれほど強くなく、歪みも軽度の初期の状態であれば、手術で歪みが全くない状態まで治る事もあります。しかし、ある程度進行した段階では、完全に歪みがなくなるところまで治ることは稀です。どの程度回復するかは、その方の回復力によっても異なります(若い方ほど回復力が高く、残る症状の程度も軽くなると言われています)。年齢や病状によってもかなり幅はありますが、手術を行うと手術前の半分くらいまで症状が軽減することが期待できます。
- 黄斑前膜は、稀ですが手術後に再発することがあります。手術時に内境界膜剥離を行う事で、再発の可能性を下げられることが分かっていますが、内境界膜剝離は網膜に対する負担も大きくなるため、黄斑前膜の状態や緑内障の有無などから行うかどうか決定します。
4.網膜前膜の手術のタイミングはいつ頃がよいでしょうか?
- 網膜前膜はゆっくりと進行する病気のため、手術の緊急性はありません。一方で、視力の低下や歪みに関しては、症状が高度になってから手術を行うと、症状が軽い段階での手術と比較して症状が強く残ってしまう傾向にあります。
- そのため、歪みが出始めた、視力が低下してきたといった症状が出てきた場合には、早めに手術を受けていただいた方が最終的な結果が良くなることが期待できます。
- たまたま検診で指摘されたが視力低下しておらず、歪みも全くないという状態であれば、もちろん手術をする必要はありません。
5.黄斑円孔で手術が必要と言われました。手術をしても孔が閉じないことはありますか?また、歪みはなくなりますか?
- 黄斑円孔は発症から早期で、円孔のサイズが小さかったりすると閉じやすいですが、発症から時間が経ってしまい、サイズが大きくなってしまうと閉じる可能性が低下してしまいます。一般的に、500umを超える黄斑円孔になると閉鎖率が下がり、また閉鎖した後の視力の改善も乏しくなります。また、強度近視の眼では非強度近視の眼と比べて、同じ黄斑円孔のサイズでも閉じづらくなります。
- 歪みは、発症早期で黄斑円孔が小さければ、ほぼなくなるところまで回復することもありますが、一般的には全く歪みがなくなるところまで回復することは稀です。
6.飛蚊症が気になります。硝子体の濁りが原因と言われましたが、手術で治せますか?
- 硝子体の混濁が飛蚊症の原因になることがあります。硝子体手術では硝子体の混濁ごと硝子体を除去するので、手術を行う事で飛蚊症を治療することは可能です。しかし、中高齢者の飛蚊症の原因で最も多い後部硝子体剝離に伴う混濁は、硝子体手術の保険適応とはなっておらず、自費での手術となります。
- ぶどう膜炎をはじめとした、病気に伴って生じる硝子体混濁は保険適応で治療可能です。ごくまれに眼内リンパ腫という悪性の腫瘍性疾患で硝子体混濁が生じることもあるため、手術を行うかどうかは慎重に決定します。
7.手術後は生活の制限はありますか?
- 手術の当日は入浴や洗眼は控えていただきます。翌日からは首から下の入浴は可能ですが、洗顔や洗髪は手術後5日間は控えていただきます。
- 姿勢の制限がない場合は、軽い運動や散歩に関しては翌日から可能です。
- 激しい運動に関しては、病気によって変わりますので医師にご相談ください。
- 飲酒や喫煙はたしなむ程度であれば翌日から可能です。
- 読書やパソコンなど、眼を使う作業に関しては制限ありませんが、硝子体手術後は白内障手術に比べると見え方が落ち着くまで時間がかかりますので、無理のない範囲で行って下さい。