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黄斑前膜

当院の黄斑前膜診療の特徴

患者様ごとの病状に応じた方針の提案

黄斑前膜は失明する病気ではなく、また緩徐に進行する病気のため、歪んで見えたり、物の大きさが違って見えたりなど見え方の質が下がっていても、眼科医によっては視力低下が軽度であれば治療の提案をしないことも多くあります。しかし、視力低下や歪みが大きくなってからの手術は、症状が軽度の段階での治療と比較すると、最終的な視機能が悪くなる傾向があります。一方で、高齢者(80歳以上くらい)や、中等度以上の緑内障を合併している場合には、症状がある程度あっても、回復力の低下や手術のリスクを鑑みるとメリットが乏しいこともあります。そのため、手術をするかどうかは、視力のみでなく歪みなど視力以外の症状の程度や年齢等を加味して考える必要があります。当院では、患者様ごとの病状に応じて方針を提案して参ります。

手術後の機能改善を重視した、網膜への負担の少ない手術

黄斑前膜の手術時には黄斑前膜を剥離する操作を行いますが、剥離の仕方によって網膜への負担は大きく変わります。ある程度経験を積んだ術者でよくありがちな、手際よくダイナミックに行う剥離は、手術を見る側からすると優れた技術のように見えますが、網膜が引っ張られる力も大きくなるため、網膜への負担も大きくなり、結果的に網膜の機能回復にも影響します。当院では、これまでの2000件以上の硝子体手術経験を生かし、網膜への負担が最小限になるように、繊細で愛護的な剥離を行うことを心がけています。

黄斑とは

  • 黄斑部とは、網膜の中心部分をのことで、網膜の感度が高く、中心の視力に影響する最も重要な部位です。
  • 黄斑部には様々な病気が起こります。そして黄斑部の異常は見え方(中心部の視野や視力)に直結するため、一番見たい中心部が見えない、中心が歪むなど著しく見え方の質を低下させます。
  • 病気によっては治療が遅れると高度に視力が低下したり、歪みが高度になったりするため、早期の治療が望ましい病気が多くあります。
黄斑の説明画像

黄斑前膜(黄斑上膜、網膜前膜)とは?

黄斑前膜は、黄斑部に線維性の膜が張ってくる病気です。初期のころは無症状ですが、膜は徐々に収縮していく性質があるため、膜の収縮に伴い網膜が引っ張られ、網膜の視細胞の配列が乱れたり、網膜機能の低下をきたすことで、物が歪んで見える、視力が低下するなどの症状が生じます。進行すると高度の視力低下に至ることもあります。
原因としては加齢によるものが最も多く、眼内の硝子体というゲル状物質が若い頃は網膜に接着していますが、加齢現象で硝子体が網膜から外れる際に、薄い硝子体の膜が網膜の表面に残り、それが増殖して生じると言われています。その他の原因として、糖尿病、ぶどう膜炎、網膜裂孔などがあります。

・正常黄斑部

・網膜前膜(矢印)

治療法は?

進行は緩やかで緊急性はなく、放置しても失明する病気ではありませんが、視力が大きく低下してからの治療は、視力が良い段階での治療と比較して最終的な視力回復が乏しいため、歪みなど症状が出てきた場合は早めの治療が望ましいと考えられています。
飲み薬や目薬で黄斑前膜を除去することはできず、治療は黄斑前膜を除去する硝子体手術を行います。 50歳以上の方や、強度近視の方は、原則として白内障手術も同時に行うことが推奨されています。
手術後の見え方は、手術前にどれくらい視力低下や歪みが強かったかによって変わります。初期の段階で手術を行えば、視力は発症前とほぼ同等に戻ることが多く、歪みはほぼ自覚がなくなることもありますが、視力低下や歪みの程度が強くなってからの手術の場合は、症状がある程度残ることも多くあります。(年齢や回復力によっても大きく差が出ます)
手術では黄斑前膜を剥離して除去します。黄斑前膜を剥離する手技は極めて繊細な処置ですが、ある程度以上の手術経験を積んだ医師であれば、剥離操作自体はそれほど大変なものではありません。しかし、網膜から黄斑前膜を剥離する際には網膜に引っ張られる力がかかりますので、引っ張っていく方向や力の入れ方により網膜にかかる負担に差が生じ、それが手術後の網膜機能改善にも影響を与えます。
一方で、黄斑前膜の性状や癒着の程度は、原因となった病態によって大きく変わり、また同じ病態であっても症例ごとによって大きな差があります。そのため、手術時にはどこから黄斑前膜を剥離するかの決定や、剥離を進める向きや力の入れ方などは、眼の状態に応じて個別に決める必要があり、この部分には、手術経験や技術的な面のみではなく、術後の視機能に対する医師の意識の高さが大きく関わります。

当院ではこれまでの多くの手術経験を活かして、網膜への影響が少なくなるよう丁寧で繊細な剥離を行うのはもちろんですが、黄斑前膜の状況に応じて剥離の進め方も個別に判断し、なるべく負担を減らしつつ視機能改善を得られるよう工夫して行っています。
黄斑疾患の手術は複数の施設で年間計150件以上行っており、硝子体手術の中でも黄斑の手術は最も得意としている分野の一つで、一般的な黄斑前膜であれば手術時間は白内障との同時手術で30分程度です。

硝子体手術の詳細は、網膜硝子体手術の項目をご覧ください。

治療例1:49才 男性

術前視力(0.5)→術後視力(1.0)

  • 数か月前から右眼の視力低下と歪視の自覚があり受診。断層写真では、黄斑部に収縮の強い黄斑前膜が見られた。また、下方の網膜には網膜剥離が見られ、網膜剥離に続発して生じた黄斑前膜と診断した。
  • 白内障はなく、若い方だったため水晶体温存硝子体手術を施行した。
  • 手術後の断層写真では、黄斑前膜はきれいに除去されている。網膜剥離も復位治癒した。歪視はほとんどなくなり、視力も(1.0)まで改善した。

術前 視力(0.5)

術後 視力(1.0)

治療例2:60才 女性

術前視力(0.4)→術後視力(0.7)

  • 数か月前から左眼の視力低下と歪視の自覚があり受診。断層写真では、黄斑部に収縮の強い黄斑前膜が見られ(矢印)、網膜は高度に膨化していた。
  • 白内障もわずかに出てきており、白内障・硝子体同時手術を施行した。
  • 手術後の断層写真では、黄斑前膜はきれいに除去されている。歪視は少し残るものの手術前の3割程度まで改善し、自覚的にはほぼ気にならなくなったとのことだった。視力は(0.7)まで回復した。

術前 視力(0.4)

術後 視力(0.7)

治療例3:69才 女性

術前視力(0.2)→術後視力(0.5)

  • 徐々に悪化する右眼の視力低下と歪視の自覚があり受診。断層写真では黄斑部に収縮の強い黄斑前膜が見られた(矢印)。
  • 白内障も併発しており、白内障・硝子体同時手術を施行した。
  • 手術後の断層写真では黄斑前膜はきれいに除去されており、視力は(0.5)まで向上したが、手術前と比較して5割程度の歪視(本人申告)が残存した。
  • 本症例では進行した状態であり手術前視力も悪かったため、術後の視力回復も限定的であった。

術前 視力(0.2)

術後 視力(0.5)

治療例4:72才 男性

術前視力(0.7)→術後視力(1.0)

  • 徐々に悪化する右眼の視力低下と歪視の自覚があり、手術を進められたため当院を紹介受診。断層写真では、黄斑前膜により網膜が牽引されていた。
  • 白内障も出ていたため、白内障・硝子体同時手術を施行した。
  • 手術後の断層写真では、黄斑前膜はきれいに除去されている。歪視はほぼなくなり、視力も(1.0)まで改善した。
  • 本症例では視力低下が歪視が強くなる前に手術が行えたため、手術後の視機能も良好であった。
  • このように、視力低下が進む前に手術を行えると最終的な視力が良好に保てることが多く、視力が落ちてきたり歪視が出てきたりしている場合は放置せず早めの治療が望まれます。

術前 視力(0.7)

術後 視力(1.0)