2026年10月に執刀した手術は、①白内障手術 84件、②白内障硝子体同時手術 15件、③硝子体単独手術 6件、でした。

さて最近、過去に白内障手術を受けた後に眼内レンズが眼の中でずれてしまったり、眼内に落下(脱臼)してしまった患者様や、外傷のため水晶体脱臼を併発してしまった外傷性白内障の患者様が受診される機会が増えております。
そうした患者様のお話を伺うと、「白内障手術の専門眼科で手術を受けたのに、後年眼内レンズがずれて再度受診したら対応してもらえなかった」「近隣の眼科では、難しい白内障手術なので対応できないと言われたので、白内障手術の専門家を謳う眼科を受診したのに対応してもらえなかった」など、「白内障手術の専門眼科」や「白内障手術の専門家」を大々的に謳う眼科を頼って受診されたものの、対応を断られ当院に辿り着いたとおっしゃるケースが少なくありません。
技術の進歩により、白内障手術は「日帰りで安全に終わる手術」というイメージが定着しました。しかし実際には、白内障手術のみ対応可能な施設での手術と、硝子体手術まで対応可能な施設では、手術に際しての安心感が大きく異なります。
【参考】硝子体(しょうしたい)手術とは?
硝子体手術とは、目の奥(網膜や、目の中に満たされているゼリー状の硝子体)に対して行う高度な手術のことです。白内障手術が「水晶体という眼の前の方の組織」を取り替える手術であるのに対し、硝子体手術は眼の深い部分にアプローチする専門的な技術と設備を必要とします。(参考:「網膜硝子体手術」)
これから白内障手術を受ける方にとって、なぜ「硝子体手術まで対応できる医療機関」が安心なのか、4つの理由を述べます。
理由1:術中合併症(核落下・チン小帯断裂)に対応できる
どれほど白内障手術に熟練した医師であっても、患者様の眼の状態(加齢による組織の脆さや、白内障の進行度)によっては、手術中に合併症が起こることがあります。
- チン小帯断裂(レンズを支える組織が切れる)
- 核落下(水晶体核が眼の奥・硝子体の中に落ちてしまう)
こうした眼の奥まで処置を要する合併症が発生した際、白内障手術しかできない医療機関では、脱出してきた硝子体を十分に切除したり、眼の奥に落ちた水晶体を除去したりするための「硝子体手術」を行うことができません。結果として、合併症に対する処置が不十分になり、術後の視機能への悪影響が大きくなったり、手術を中断して他院へ緊急搬送・紹介となったりしてしまい、患者様にとって大きな身体的・精神的負担がかかることになります。
硝子体手術ができる医療機関であれば、同じ手術中にそのまま適切な処置を行い、他院に搬送することなく手術を完結させることが可能です。
理由2:高齢化に伴う「眼内レンズ脱臼・落下」の増加
無事に白内障手術が終わっても、10年以上(元々水晶体の支えが弱い方だと数年で生じることもあります)が経過した後に、移植した眼内レンズを支える組織が弱まり、レンズがズレたり眼の奥に落ちたりする(眼内レンズ脱臼・落下)トラブルが近年増加しています。(参考ブログ:「眼内レンズ偏位・脱臼・落下」)
この場合、落ちたレンズを取り出し、新たなレンズを眼の壁に固定する「硝子体切除術+眼内レンズ強膜内固定術」という高度な硝子体手術技術が必要となります。定型的な白内障手術しか行えない施設では、このような手術に対応することができません。
理由3:術後の見え方のズレや不満に対する「眼内レンズ交換(入れ替え)」に対応できる
手術前に予測式によって度数を合わせても、個人の眼の形状や眼内レンズの個体差、また回復過程によって「狙った度数とズレてしまった(屈折誤差)」ということが起こり得ます。(参考ブログ:「白内障手術における屈折度の精度について」)
また、計算通り・狙い通りの度数になったとしても、実際に生活してみると「想像していた見え方と違い、生活上で実用的ではない(手元が思ったより見えづらい、仕事や運転に支障が出るなど)」と感じるケースもあります。
さらに、稀ではあるものの、多焦点眼内レンズを選択した際に生じる「光の散乱や見づらさにどうしても慣れない(不耐症)」という問題が生じることもあります。
このような場合、一度入れたレンズを取り出して別のレンズに入れ替える「眼内レンズ交換術」が必要になります。
しかし、一度眼の中に馴染んだレンズ(嚢に癒着したレンズ)を安全に取り出し、綺麗に入れ替える作業は定型的な白内障の手術と比較して非常に難易度が高く、カプセル(嚢)が破れた際にも即座に対応できる硝子体手術の技術と知識が不可欠です。
「レンズを新しく入れる白内障手術は得意だが、術後の見え方の不満に対するレンズ交換や取り出しはできない」「多焦点レンズを積極的に勧めて執刀するものの、不適応が起きた時のレンズ交換や摘出はできない」という医療機関が存在するのも、残念ながら現在の眼科業界の現実です。
理由4:最新研究で判明した「多焦点レンズ後の見づらさ」と硝子体混濁
多焦点レンズを入れた後に「なんだかすっきり見えない」「モヤがかかったように見えづらい」と感じる原因の一つとして、眼の奥の濁り(硝子体混濁)が影響していることが最新の研究でも明らかになってきました(参考ブログ:「眼科トップジャーナル専門誌による白内障・屈折矯正手術の最新視点 – 多焦点眼内レンズにおける満足度の観点から、後悔しないための選び方と満足度を高めるポイント –」。
多焦点レンズは構造上、光のロスが生じうるため、硝子体の濁りにより見え方の質(コントラスト感度など)が低下してしまうことがあります。この症状を改善するためには、硝子体手術を行って眼の奥の混濁を取り除く必要があります。白内障の手術だけでなく、眼の奥(後方線維層・硝子体)まで総合的に診察・治療できるスキルがあって初めて、手術後の不調を訴えられた場合に硝子体手術という選択肢を提案することが可能となります。
「専門家・専門施設」を謳う責任とは?
「白内障手術の専門家」「白内障手術の専門施設」といった言葉を用いて、自らの専門性や権威性を大々的にアピールし、患者様を集めている施設や医師が少なくありません。また、外部から「白内障手術の大家・権威」と言われているような執刀医を招聘していることをアピールする施設もあります。
もちろん、医療の効率化や地域連携の観点から、外来診察医と執刀医が異なる「チーム医療」といった分業体制そのものは否定されるべきものではありません。また、一般眼科様が高次医療機関との連携体制のもとで定型的な白内障手術を提供し、地域医療を支えることには、大きな意義があります。
しかし、「専門家」「専門施設」や「大家」「権威」といったキャッチコピーで高度な専門性や権威性を強調して集患する一方で、実際には定型的な白内障手術や高額な自費手術のみを行い、術中の水晶体核落下や術後の眼内レンズ脱臼、レンズ不耐症など、自らが専門と謳う水晶体や眼内レンズ関連のトラブルであっても、自院では対応しなかったり、分業化している施設においては必要な時ですら執刀医の診察や説明も受けられなかったりするのだとすれば、患者様の立場に立った医療を行っているとは言えないのではないでしょうか。
もちろん、白内障手術を行うすべての眼科が、あらゆる眼科領域の合併症に対応することは現実的ではありません。自院で対応できない症例を、適切な高次医療機関に紹介すること自体は、患者様の安全を守るために必要な医療行為です。
しかし、白内障手術を自らの専門領域として積極的に標榜するのであれば、少なくとも水晶体および眼内レンズに関連する合併症については、十分な診断能力と治療能力を備え、必要な再手術にも対応できる体制を整えるべきではないでしょうか。具体的には、「水晶体核落下」、「チン小帯断裂」、「眼内レンズ交換」、「眼内レンズ脱臼」、「眼内レンズ強膜内固定」については、定型的なものであれば自院で対応できる技術と設備を備えることが必須でしょう。長時間の手術で術中全身管理が必要などの特殊なケースなど、自院で対応できない症例についても、確実な専門医連携と診療の継続性を確保し、患者様が診療の行き場を失わないようにする責任があります。また、外来診察と手術を分業化をしている医療機関であれば、必要時には執刀医が診察・説明を行う体制を整えておくべきでしょう。
自院で対応できないトラブルを他院へ丸投げすることを前提に「専門施設」と主張する姿勢は、医療倫理的にも問題ではないかと思われます。これらの対応を行わない施設は、「白内障手術の専門施設」を謳うのではなく、あくまで「白内障手術を行っている一般施設」として、誠実に地域医療に貢献すべきと考えます。
「白内障手術の専門眼科を謳う施設」を受診するのであれば、ここをチェックしてください
「白内障手術〇万件」「〇〇Award受賞」「世界レベルの手術」などとアピールし、「白内障手術の専門家」「白内障手術の専門眼科」を謳っていてたり、知名度が高く「権威」とされる医師でも、実は定型的な白内障手術しか行っておらず、複雑な症例や術後の再手術・トラブルには対応できない医師やクリニックは少なくありません。(特に〇〇Awardは、「そのメーカーのレンズを多数使った実績があり、メーカーの販売に貢献した」という証でしかありません)
こういった施設で患者様が手術を受けるのであれば、以下のポイントを確認することをお勧めします。
- 執刀医・施設が「硝子体手術」に対応しているか?
- 「眼内レンズ交換」や「眼内レンズ強膜内固定術」まで自院で対応できるか?
- 術後に度数のズレや見え方の不満が生じた際、レンズ交換を含めたアフターフォロー体制が整っているか?
- 執刀医と外来担当医が異なる体制の場合(※分業自体は総合病院などでも一般的な診療体制です)、通常の経過観察は外来担当医が対応するとしても、合併症などが生じた『必要な時』には、執刀医本人の診察や説明を直接受けられる体制になっているか?
白内障手術は、一生に何度も受けるものではありません。だからこそ、「何事もなく上手くいった時」だけでなく、「合併症や術後の見え方の不調が起きた時」のことを考えて医師や施設を選ぶことが必要と考えます。
当院の診療体制について
当院では、標準的な白内障手術はもちろんのこと、術後合併症への対応や、水晶体脱臼を生じている症例、見え方の不適合に対する「眼内レンズ交換」、「眼内レンズ脱臼や落下に対する強膜内固定術」まで、すべて自院にて硝子体手術技術をもって一貫対応が可能です。