2026年8月に執刀した手術は、①白内障手術 69件、②白内障硝子体同時手術 16件、③硝子体単独手術 4件、④硝子体手術+眼内レンズ強膜内固定術 1件(眼内レンズ脱臼)でした。

さて、今回は医療系動画について述べたいと思います。YouTubeやSNSを開けば、医師や専門家が健康法だけでなく、最新の治療法や手術(多焦点眼内レンズ、ICL、LASIK、美容医療、矯正歯科、インプラント等)を解説する動画が溢れています。当院を受診される患者様にも、「YouTubeではこのように言っていたので、この治療を受けたい」というような事を言われることがあります。しかし、そうした動画を観ていて、こう感じたことはないでしょうか。

「メリットばかり強調されていて、自院への受診や手術の誘導をしており、胡散臭い。」

「学会のデータや論文も出さずに『効果抜群』と言っているけれど、信用していいの?」

結論から言えば、商業目的が透けて見え、かつ論文やガイドラインなどの客観的データがない情報は『ビジネス目的動画』と考えるべきです。

「医療知識を分かりやすく広めるため」という名目の陰で、その実態の多くは自院へ誘導するための集客ツールと化しているのが、今の動画プラットフォームの惨状です。なぜそう言い切るべきなのか、医療リテラシーの観点から、その構造的な理由と失敗しない情報の見極め方を述べたいと思います。

1. なぜ「データなし×集患目的」の動画が溢れ返るのか?

医療の世界には、効果や安全性を検証するEBM(科学的根拠に基づく医療)という大原則があります。この原則に照らすと、客観的なソースがない発信は「ただの個人的な主張(感想)」に過ぎません。それにもかかわらず、なぜ質の低い動画が後を絶たないのでしょうか。

① 「医療倫理」と「プラットフォームのアルゴリズム」の相性の悪さ

医療の本質は「リスクとベネフィットを正確に伝え、不確実性を伴う医療行為に対して誠意を持って説明すること」です。しかし、YouTube等のアルゴリズムは「わかりやすさ」「強い断定」「感情を揺さぶる演出(煽り)」を評価し、拡散します。

誠実に「個人差があります」「ガイドラインではこうです」と語る良質な動画ほど埋もれ、患者の不安や期待に付け込んで「〇〇するだけで治る」「劇的に変わる」と耳あたりの良い言葉を並べる動画が伸びてしまうという悪循環が起きています。

② 利益相反(COI)による「強いバイアス」

自由診療(自費診療)は、保険診療と違って価格や利益率が高く、集客がそのままクリニックの収益に直結します。

商業的なインセンティブ(儲けたい意図)が強く働く場面では、「メリットの極端な強調」と「デメリット・リスクの軽視」という偏りが構造的に発生します。客観的データを出さない発信は、医療情報ではなく単なる「セールストーク(営業)」です。

③ 医療には必ず「トレードオフ(光と影)」がある

例えば「白内障手術の多焦点眼内レンズ」は、メガネの装用率を下げられる大きなメリットがある一方、構造上以下のデメリットが存在します。

  • コントラスト感度の低下(くっきり感がやや落ちる)
  • ハロー・グレア現象(夜間にライトの光が滲む・眩しく見える)
  • 見え方の慣れに個人差がある

このため、例えば緑内障や網膜疾患のある方に対しては、ガイドライン上でも推奨できないという位置づけになっています。これらのデメリットを正確に伝えず、誰にとってもあたかも夢のようなレンズと受け取られかねない表現で、「絶対におすすめ」「世界が変わる」とメリットばかり煽る動画は、医療情報として不適切と言えます。

2. 信頼してよい情報・即却下すべき情報の判断基準

「何を基準に判断すればいいか分からない」という方は、以下の基準で情報をふるいにかけてください。

✕ 即座に「信頼性ゼロ」と断定してよいケース

  • 自院の患者の体験談や、自院のみの限られたデータ、医師個人の感想しか提示していない
  • 厚生労働省や専門学会の「標準治療」を否定もしくは無視している。
  • 査読付き論文(第三者の専門家がチェックした論文)やガイドラインの提示がない
  • 不安や期待を煽った上で、自院への来院や高額な自費手術へ誘導している

◯ 信頼を検討してよいケース

  • 専門学会のガイドラインや、査読済み論文をソースとして明記・リンクしている
  • 治療のメリットだけでなく、リスク・副作用・適応外(向かない人)を明記している
  • 自院のデータを出している場合は、学会発表や論文掲載された内容のデータを提示している。
  • 自院への受診や高額な自費手術への誘導がない。

3. 医療系動画と賢く付き合うための「行動指針」

集患目的の動画や、客観的データのない発信に惑わされないために、次のステップを意識しましょう。

  • 宣伝動画は「判断材料」から完全に除外する
    データのない動画は「こういう治療法が存在するんだな」という存在を知るきっかけ程度にとどめ、受けるかどうかの意思決定からは除外します。
  • 利益関係のない「第三者の専門医」に相談する
    治療を検討したい場合は、動画のクリニックに直接駆け込むのではなく、第三者の専門医に相談しましょう。
  • 学会や公的機関のサイトでファクトチェックをする
    専門学会や厚生労働省などの公的サイトで、その治療法の「一般的な評価や注意点」を確認する習慣をつけましょう。

まとめ:商業目的の動画に惑わされないために

医療系YouTuberの発信は、現在は残念ながら商業目的のもので溢れかえっており、純粋な医療情報の啓発動画はごくわずかであるのが実情です。

医療従事者としての視点からお伝えすれば、「医療系動画は信頼性が低いものが大部分であるため、治療の参考としては見ない」のが最も安全な姿勢と言えます。また、そのような動画を発信している医師も、残念ながら純粋に啓発目的で行っている医師はごく一部で、多くは商売目的の医師であるのが現実です。

もし医療系YouTube等をご覧になるのであれば、医療情報としてではなく「あくまでエンターテインメント(娯楽)のコラム」と割り切った視点で接することをお勧めいたします。ご自身の大切な身体と資産を守るためにも、客観的な科学的根拠(エビデンス)に基づいた正しい情報選択を心がけていきましょう。