2026年4月に執刀した手術は、①白内障手術 85件、②白内障硝子体同時手術 21件、③硝子体単独手術 3件、④硝子体手術+眼内レンズ強膜内固定 3件(眼内レンズ脱臼 2件、無水晶体眼 1件)、⑤緑内障手術 1件(プリザーフロマイクロシャント)でした。

さて、以前黄斑前膜の手術のタイミングについての考察をブログで記載しました(ブログ「黄斑前膜の手術のタイミングは?」)。2026年4月に、Journal of VitreoRetinal Diseasesという雑誌に、黄斑前膜の術後5年成績を報告した論文(Functional and Anatomic Outcomes in Eyes With Primary Epiretinal Membranes After Surgical Removal: 5-Year Results of the Pan American Collaborative Retina Study Group. J Vitreoretin Dis. 2026)が掲載されましたので、その内容を踏まえて、手術のタイミングについての考察を再度述べたいと思います。

黄斑前膜は、加齢などを背景に黄斑部に膜が形成され、視力低下や歪みを生じる疾患です。日常診療では、特に手術を行わない眼科医は、「まだ視力がそこまで悪くないから様子見」「手術はもう少し進んでから」といった判断をすることも少なくありません。しかし最近の研究では、「待つこと」の影響がより明確になってきています。


■ 手術すれば、どのステージでも視力は改善する

今回の研究では、網膜前膜手術後の長期経過(5年)が検討され、

  • すべてのステージで術後視力は改善

することが示されています。つまり、黄斑前膜は手術により、多数例での平均的な期待値で見れば視機能の改善が期待できる疾患です(もちろん全ての症例で改善すると言えるわけではありません。症例によっては、稀ではあるものの悪化するケースもあり得ます)。


■ しかし、「最終視力」はステージで差が出る

一方で、今回の結果において重要なのは、「 術前ステージが早いほど、良好な視力に到達する割合が高い」という点です。これは言い換えると、

  • 治療が遅くても改善はする
  • しかし「最終的な視機能」において、病状が早期で視力が悪くなる前のほうが有利

ということです。


■ なぜ遅れると視力が戻りにくいのか?

黄斑前膜が進行すると、

  • 網膜の層構造の乱れ
  • 持続的な牽引による変形

などの変化が強くなり、手術後も完全には元に戻らない可能性が高くなると考えられています。


■ 結論:手術を遅らせることは望ましくない

以上から、

✔ どのステージでも改善する
✔ しかし早いほど最終視力が良い

という点を踏まえると、 「悪くなってから手術」を前提にするのは適切とは言えないと考えられます。


■ ただし無症状での手術を勧めるものではない

今回の結果は、 「視機能が悪くなる前に手術すべき」=「黄斑前膜があれば誰でもすぐ手術すべき」という意味ではありません。具体的には、

  • 歪視(変視)がない
  • 不等像視がない
  • 自覚的な視力低下がない

といった症状がない段階での手術を積極的に勧める根拠にはなりません。

手術には合併症や、稀ではあるもの手術侵襲による視機能悪化といったリスクもあるため、症状と生活への影響を踏まえた判断が重要です。また、黄斑前膜の中でも、生涯視力低下や歪視などの症状が出ず経過する症例も一定数います。そのため、「早く手術すればより良い結果が得られる可能性が高い」=「全例で早期手術が正しい」ではない、という点が重要です。無症状の段階での手術は、 結果的に過剰治療になる可能性も含んでいます。

■ 実臨床での判断のポイント

重要なのは、経過観察をするか、手術に踏み切るかの判断のバランスではないかと考えております。

👉 症状が出ているなら、引き延ばしすぎない
👉 症状がないなら、慎重に経過観察

つまり、「様子見一択」でもなく「早期手術一択」でもない、“適切なタイミングを逃さない”ことが最も重要だと思われます。また今回は視力を中心に手術のタイミングについて述べましたが、「症状の質・内容」も手術をするかどうかの決定においては重要です。以前のブログで述べた通り、生活の質を低下させやすいのは視力低下よりもむしろ歪視や不等像視であり、視力が良好であっても、これらの症状が出てきた場合には、悪化する前の手術を考慮すべきであると考えます。