5月に執刀した手術は、①白内障手術 76件、②白内障硝子体同時手術 14件、③硝子体単独手術 6件、④硝子体手術+眼内レンズ強膜内固定術 1件(無水晶体眼)、⑤眼内レンズ交換 1件でした。5月は裂孔原性網膜剥離の緊急手術が3件ありました。
さて、表記の緑内障の治療導入についてですが、緑内障において最も大切なことは、眼圧を下げることです。(眼圧や緑内障の病態については、「緑内障」の項目をご参照ください。)
眼圧を下げる治療としては、大きく分けて、①点眼薬による治療、②レーザー治療、③手術治療、があります。治療法は、緑内障の病型、現在の視野の状況や眼圧、年齢等を勘案して選択していきますが、手術を導入治療として行うことは特殊な状況を除いて、まずありません。では、最も一般的な広義の原発開放隅角緑内障(正常眼圧緑内障を含む)の導入治療はどのように選択したらよいのでしょうか?これまでの緑内障ガイドラインでは、原発開放隅角緑内障に対しての導入治療の選択肢は点眼薬のみであり、レーザー治療や手術治療は点眼薬を複数剤使用しても目標眼圧に到達できないときや視野障害が悪化する際に初めて考慮する位置づけでした。しかし、近年ではこの方針に変化が見られつつあります。
点眼薬による治療は、簡便であるというメリットが有る一方で、毎日きちんと点眼を行う必要がある、忘れてしまうと眼圧下降効果が低減してしまう、アレルギーなどの副作用の可能性がある、時間帯により均一な効果が得られない、などのデメリットがあります。また、1種類では十分な効果が得られず、複数の薬を使う必要があることもあります。
レーザー治療としては、「選択的線維柱帯形成術(SLT)」という治療があります。SLTは、シュレム管の手前にある線維柱帯をターゲットとした治療であり、線維柱帯にレーザーを当てることで、線維柱帯からシュレム管への流出を良くすることで眼圧を下げる治療です。平均的に3mmHg程度の眼圧下降が期待できると言われており、合併症も軽度の炎症や一過性眼圧上昇程度で、安全性の高い治療ですが、1割程度の方では効果が得られないこと、SLTのみでは十分な眼圧下降効果が得られず、点眼薬の治療を追加する必要があり得ること(必ずし点眼薬が必要なくなる訳ではない)、また時間経過とともに効果が減弱する可能性(その際は追加治療が可能)などがあり得ます。
前述の通り、SLTは点眼治療で眼圧が下がらない際に考慮される治療法という位置づけでした。しかし、眼圧が高めのタイプである原発開放隅角緑内障に対する導入治療でSLTが目薬による治療と比較して良好な結果であるとの報告(LiGHT study)が、医学界で最も影響力のある学術誌であるLancetに掲載されて以来(Selective laser trabeculoplasty versus eye drops for first-line treatment of ocular hypertension and glaucoma (LiGHT): a multicentre randomised controlled trial. Lancet 2019)、未治療の原発開放隅角緑内障に対する導入治療の第一選択は、近年SLTに移行しつつあり、本邦における学会報告でも導入治療におけるSLTの有用性に関する報告が増えてきています。また2022年には、アメリカの高名な眼科雑誌であるOpthalmology誌にLiGHT試験の続報が掲載されました。この論文は原発開放隅角緑内障と高眼圧症に対する導入治療におけるSLTと点眼治療の6年間の比較試験の結果ですが、SLTが点眼治療と比較して有意に緑内障の進行が抑えられ、また線維柱帯切除術を必要とした頻度も低かったと報告されており、長期成績についてもSLTの有用性が示されてきています(Six-Year Results of Primary Selective Laser Trabeculoplasty versus Eye Drops for the Treatment of Glaucoma and Ocular Hypertension. Ophthalmology 2022)。
更に、眼圧が正常なタイプである正常眼圧緑内障に対しても、日本における多施設共同研究にてSLTの安全性と有効性が報告されました(ただし、この研究は点眼薬による治療との比較試験ではないため解釈には注意を要します。Efficacy and safety of first-line or second-line selective laser trabeculoplasty for normal-tension glaucoma: a multicentre cohort study. BMJ open ophthalmology 2024)。また、長期間点眼薬の治療を行った後ではシュレム管より先の血管が細くなってしまうため、SLTの治療効果が少なくなりますので、SLTは原理的に未治療の状態が最も効果が期待できます。
このような背景から、現時点での広義の原発開放隅角緑内障に対する導入治療について個人的な考えをまとめると、
①眼圧が高いタイプの緑内障(狭義の原発開放隅角緑内障):SLT
②眼圧がやや高め(16mmHg以上)の正常眼圧緑内障:診断時の視野が中期以上または50歳未満の若年者はSLT、50歳以上でかつ初期の場合は点眼薬
③眼圧が低めの(15mmHg以下)の正常眼圧緑内障:基本的には点眼薬だが、中期以上や若年者の場合はSLTも考慮
と考えています。しかし緑内障の治療方針や目標眼圧は、年齢や全身疾患などから予測される生命予後や、他のリスク因子(喫煙や睡眠時無呼吸症候群など)、患者様の希望なども勘案して考える必要があるため、患者様ごとに個別の判断が必要となります。