4月に執刀した手術は、①白内障手術 70件、②白内障硝子体同時手術 18件、③硝子体単独手術 8件、④緑内障手術(ろ過手術) 1件、⑤白内障手術+緑内障手術(流出路再建術) 1件、⑥眼内レンズ交換 2件でした。4月は多摩地区の総合病院様から白内障手術中の合併症である水晶体核落下の手術依頼のご紹介と、眼内レンズ脱臼に伴う瞳孔ブロック・急性高眼圧発作の患者様の来院があり、緊急手術を行いました。

さて、4/18-4/21に128回日本眼科学会総会があり、大阪大学西田幸二教授の特別講演を拝聴しました。西田先生は角膜研究の中でも、角膜上皮とその再生治療における日本の第一人者で、これまでの研究の内容と角膜上皮再生医療の現状とこれからの展望まで分かりやすくご講演いただきました。

角膜は黒目の表面の透明な膜組織で、透明性、無血管性、形態維持能、栄養維持機構と他の組織にはない特徴があり、視機能においてその透明性と整った曲率は極めて重要です。しかし、外傷や熱傷、また類天疱瘡やStevens-Johnson症候群など、角膜が障害され、透明性が維持できなくなってしまうと、視機能が大きく低下してしまいます。

角膜は障害により角膜上皮が失われた場合は、角膜輪部から供給された角膜上皮細胞が増殖して速やかに治癒します。 しかし、角膜輪部を含む広い領域の角膜上皮が失われると、 角膜輪部周囲の血管を伴う結膜上皮が侵入してきます。すると、角膜表面が結膜上皮に覆われ、角膜が混濁して視力が低下してしまいます(LSCD:Limbal Stem Cell Deficiency)。LSCDの治療には、自身の健康な側の眼から採取した角膜輪部を移植する「自家角膜輪部移植」や、 他人(同種)の角膜輪部を移植する「同種角膜輪部移植」、「羊膜移植」が行われてきました。 しかし「自家角膜輪部移植」は、健常眼からの広範な角膜輪部の採取が必要なため侵襲が大きく、高リスクな治療です。また 「同種角膜輪部移植」は、長期的な免疫抑制が必要であり、ドナーが必要であるという難点もあります。また「羊膜移植」では、羊膜には炎症を抑制したり、細胞の伸展をサポートするなどの効果があるものの、角膜上皮幹細胞は含まれていないため、患者さんの眼に角膜上皮幹細胞が残存している必要があります。このように、これまではLSCDに対する十分な治療法は存在しませんでした。そこに大きな光明をもたらしたのが、角膜上皮の再生医療です。

西田教授は角膜上皮幹細胞や細胞運命転換などの研究に尽力され、その後角膜再生医療の研究も行ってこられました。そして2004年にはImpact Factor(学術誌の質を示す指標)が最も高いNew England Journal Medicine誌に、口腔粘膜由来の細胞シートを用いたLSCD治療を行った4眼の報告をされました(Corneal reconstruction with tissue-engineered cell sheets composed of autologous oral mucosal epithelium. N Eng J Med. 2004)。この技術は企業に移管され、製品化されて、2021年6月に国から製造販売承認を得て、2021年12月より保険での治療が可能となりました。また、ペレグリーニ教授らにより発表された「自家培養角膜上皮」は、1997年に世界で初めて LSCDの患者さんに移植され、良好な結果が報告されましたが、 日本では、(株)ジャパン・ティッシュエンジニアリングが、 ペレグリーニ教授らのグループおよび西田教授の技術をもとに開発し、2020年3月に製造販売承認を受けています。

大阪大学眼科学教室HPより引用

西田教授はその後、山中伸弥先生の協力のもと、ヒトiPS細胞を用いた研究を進められ、眼の全体的な発生過程を再現する「SEAM(眼オルガノイド)」の開発に成功し(Co-ordinated ocular development from human iPS cells and recovery of corneal function. Nature. 2016)、これを再生医療や疾患研究に応用可能な革新的な技術として確立されました。SEAMを用いたヒト角膜上皮オルガノイドの構築にも成功し、iPS細胞由来の角膜移植の世界初のヒト臨床試験を2019年に開始し、2022年には安全性と有効性を示す成果が得られました。iPS細胞由来の角膜上皮シートの臨床試験が2024年中に開始され、2027年頃には実用化される見通しだそうです。このように、角膜上皮の再生医療は日進月歩で進んでおり、そう遠くない将来LSCDが再生医療によって克服される日が来るのではないかと思われます。同時に、現在はまだ再生医療の実用化が進んでいない網膜や視神経疾患などに対しても、再生医療の応用が進むことが期待されます。