2025年1月に執刀した手術は、①白内障手術 75件、②白内障硝子体同時手術 15件、③硝子体単独手術 4件、④硝子体手術+眼内レンズ強膜内固定術 1件(眼内レンズ脱臼)、⑤緑内障手術(プリザーフロマイクロシャント) 1件でした。1月は裂孔原性網膜剥離の緊急手術が4件ありました。
さて、黄斑前膜では歪視(物が歪んで見える)が主な症状として生じますが、0.5°以上の歪視は生活の質(QOL)を優位に低下させることが分かっています。また歪視には視力低下を必ずしも伴わず、視力が低下していなくても歪視で悩む患者様は多いため、視力が低下していなくても歪視や不等像視の症状でQOLが低下している場合には手術を積極的に考えるべきであることは以前のブログでも述べました。黄斑前膜の手術の多数例での検討においては、手術後歪視は軽減することが分かっていますが、個別の症例で見た場合には、歪視が劇的に良くなる方もいれば、殆ど変わらない方もいますし、少数ではあるものの歪視の自覚が術後に強まる方もいます。では、黄斑前膜の手術後の歪視の改善にはどのような要因が関わっているのでしょうか?
黄斑前膜において網膜の内顆粒層が厚いほど歪視の程度が強く、また手術後の歪視改善が乏しいことが、2015年にアメリカの網膜専門学術誌であるRETINAに、また2018年にアメリカの高名な眼科雑誌であるAmerican Journal of Ophthalmologyに掲載されました(INNER NUCLEAR LAYER THICKNESS AS A PROGNOSTIC FACTOR FOR METAMORPHOPSIA AFTER EPIRETINAL MEMBRANE SURGERY. RETINA. 2015、Inner Nuclear Layer Thickness, a Biomarker of Metamorphopsia in Epiretinal Membrane, Correlates With Tangential Retinal Displacement. Am J Ophthalmol. 2018)。2015年のRETINAの論文では、中心窩網膜厚、傍中心窩網膜厚、内顆粒層厚の3つのパラメータが手術前の歪視の程度と優位に相関し、また術前の内顆粒層厚が術後の歪視の程度と最も相関が強かったと報告しています。また2018年のAmerican Journal of Ophthalmologyの論文でも、手術前の内顆粒層厚が術前の歪視・術後の歪視両方と優位に相関したと報告しています。
また2020年に、黄斑前膜において歪視の程度と中心窩無血管領域(FAZ)の面積に強い相関があること、FAZの面積と視力には相関がなかったことが、オープンジャーナルであるScientific Reportsに掲載されました(Association of foveal avascular zone with the metamorphopsia in epiretinal membrane. Sci Rep. 2020)。一方で、FAZの形は歪視の程度とは相関がありませんでした。(※FAZは光干渉断層血管撮影(OCTA)で撮影が可能ですが、2025年1月現在黄斑前膜においてOCTAは保険適応なし)

同じ2020年に、黄斑前膜と網膜の間のスペース(SUKIMA)が歪視の程度と相関があることが、アメリカの高名な眼科オープンジャーナルであるIOVSに掲載されました(Relationship Between Optical Coherence Tomography Parameter and Visual Function in Eyes With Epiretinal Membrane. IOVS. 2020)。またSUKIMAは視力とも相関があったと報告されています。

FAZとSUKIMAについては、歪視の程度との相関は述べられているものの、手術後の歪視に影響するかどうかは述べられておりません。それを踏まえてこれらの報告をまとめると、
・黄斑前膜において、内顆粒層が厚いほど、FAZが狭いほど、SUKIMAが大きいほど歪視の程度が強くなる。
・内顆粒層が厚いほど手術後の歪視は強く残る。
と言えるかと思います。これらの報告は特発性黄斑前膜を対象とした研究ですが、また個人的な感覚からは、特発性黄斑前膜と比較して、続発性黄斑前膜(原因としては網膜裂孔、網膜静脈閉塞症、糖尿病などがある)では、手術中の癒着が強いことが多く、また術後も歪視が強く残る症例が多い印象があります。これらについても今後明らかになっていくことが期待されます。