7月24日-7月30日に執刀した手術は、①白内障手術 9件、②白内障硝子体同時手術4件、でした。

さて、表記の黄斑前膜についてですが、黄斑前膜は手術のタイミングが悩ましい病気です(病気の詳細は黄斑前膜の項をご参照ください)。放置しても失明する病気ではありませんが、視力低下や歪視(物が歪んで見える)、不等像視(物の大きさが違って見える)などの症状の原因となって見え方の質を落とし、また眼科を受診しても「まだ手術は必要ない」と言われることも多い病気のため、患者様にとっても「いつ手術を受けたらいいのか」というのは悩まれる問題と思われます。黄斑前膜に関する論文は数多くありますが、手術のタイミングに関する報告はほとんどなく、どのタイミングで手術に踏み切るべきかは網膜硝子体術者の間でも一定の見解はありません。

そのような現状で、手術のタイミングについて示唆に富む報告がいくつかあり、現段階での個人的な考えを述べたいと思います。2019年のBMC ophthalmolに、視力(0.9)以上の術前視力良好群と、視力(0.3~0.8)の術前中間から視力不良群の手術成績を比較した論文が掲載されました(Prospective study of vitrectomy for epiretinal membranes in patients with good best-corrected visual acuity. BMC ophthalmol 2019)。この論文では、術後視力は術前視力良好群が視力不良群と比較して有意に良好で、水平方向の歪視は両群で有意に改善(有意差なし)、垂直方向の歪視と不等像視は両群で改善がなかったと報告されています。また、2022年のOphtalmology Retinaでは、初診後6ヶ月以内の早期手術群と、初診後平均18ヶ月の晩期手術群の比較が報告されました(Natural History and Surgical Timing for Idiopathic Epiretinal Membrane. Ophthalmology Retina 2022)。この論文では、早期手術群は晩期手術群と比較して手術前の視力が有意に不良であったこと(当然ではありますが、視力が悪いからこそ早くに手術を希望する人が多かった)、晩期手術群で手術に至った有意な要因(多変量解析)は初診時に有症状であったこと(初診時に有症状だと後々手術になる可能性が高い)、晩期手術群でも手術時には早期手術群と同程度に視力が低下していたこと(初診時有症状だと悪化するリスクも高い)、早期手術群と晩期手術群で比較した際の視力の改善幅に差はなかったこと(→改善幅が同じなら、視力が悪化する前の段階での手術のほうが最終視力が良くなるのでは?)、といった結果が報告されています。これらをまとめると、

・有症状の黄斑前膜はその後も悪化していく可能性と、今後手術が必要になる可能性が高い。

・視力良好な段階での手術の方が、視力が悪化してからの手術より最終視力が良い。

・垂直方向の歪視と不等像視は、視力と水平方向の歪視と比較すると改善しづらい。

という事が言えるかと思います。これらを踏まえ、現状では歪視や視力低下の症状が出始めた段階で積極的に手術は考慮すべきと考えています。特に垂直方向の歪視と不等像視は改善しづらいため、悪化していくまで様子を見るのは避けるべきと思われます。とは言え、個々人の症状の程度や年齢、緑内障など他の疾患の合併など手術に影響する要因は他にも多くあるため、患者様ごとの状況に合わせた判断が必要です。