2/5ー2/18に執刀した手術は、①白内障手術 25件、②白内障硝子体同時手術 6件、③硝子体単独手術 2件、④白内障手術+緑内障手術(流出路再建術)2件でした。
今回は黄斑円孔の手術方法について述べたいと思います。黄斑円孔は硝子体手術が行われ始めた頃には治療不能な病気だと考えられていました。しかし、三次元断層撮影(OCT)の進歩に伴い病態の解明が進み、また硝子体手術機器の進歩や術式の改良も加わり、手術で治療ができるようになってきました。黄斑円孔の手術において最も治癒率の向上に寄与したのが内境界膜の剥離です。内境界膜は網膜内の細胞成分であるミュラー細胞の基底膜であり、コラーゲン線維やグリコサミノグリカンなどから組成されていて、視機能には関わらない組織と言われています。Eckardtらが1997年に黄斑部の内境界膜を剥離することで黄斑円孔の閉鎖率が上がることを報告して以降、内境界膜剥離法の有効性が多数報告されました。内境界膜は数umの組織であり、その剥離は技術的に極めて難しい手技でしたが、インドシアニングリーンやブリリアントブルーなどの薬剤による内境界膜の染色ができるようになり、内境界膜剥離の手技が一般化して、黄斑円孔の手術は「硝子体切除、内境界膜剥離、空気 or ガスタンポナーデ」が標準術式として確立されました。しかし、大きな黄斑円孔や陳旧性黄斑円孔、強度近視に伴う黄斑円孔などの閉鎖率はやや悪く、さらなる閉鎖率向上が望まれていました。そのような中、Michalewskaらが巨大黄斑円孔に対して内境界膜をフラップ状に残して黄斑円孔に被せる内境界膜翻転法による成績を報告して以降、難治性黄斑円孔に対して良好な閉鎖率が得られるようになってきました(Inverted internal limiting membrane flap technique for large macular holes. Ophthalmology 2010)。その後、内境界膜翻転法をアレンジした方法も多数報告されてきています。そして、現時点での標準術式は、①通常の黄斑円孔は通常の内境界膜剥離、②難治性黄斑円孔(巨大黄斑円孔、陳旧性黄斑円孔、強度近視に伴う黄斑円孔など)は内境界膜翻転法、となりつつあります。
当院でも黄斑円孔の術式はほぼ上記に準じて行っております。サイズとしては、500umを超えるような大きな黄斑円孔は、通常の内境界膜剥離法では閉鎖が得られないことが出てくるため、内境界膜翻転法が望ましいと思われます。自験例でも下のような大きな黄斑円孔でも、内境界膜翻転法により閉鎖が得られています。
しかし、内境界膜翻転法は、被せたフラップが黄斑円孔の底部(網膜色素上皮側)に接着してしまうと視細胞の遊走を逆に阻害する可能性があると考えられており、もし通常の剥離法で閉鎖するのであれば、通常の剥離法の方が望ましいとも思われます。そのため、内境界膜翻転法で行うかどうか悩ましいケースが一部あり、サイズとしては450~500umくらいの黄斑円孔はどちらの手法で行くか悩むドクターも多くいらっしゃいます。そのような中、ボーダーラインのケースでは、通常の内境界膜剥離に加えて「辺縁なでなで法」を併用しています。この手法は論文としては報告されていませんが、硝子体手術を学んでいた時の指導医から「内境界膜剥離を行った後に黄斑円孔の辺縁をシリコンソフトチップで優しく撫でて伸ばすと閉鎖しやすい」という手法を教えていただいたことがあり(辺縁なでなで法)、再発性黄斑円孔ですでに内境界膜が剥離されていて内境界膜翻転法もできないような場合でもこの方法で閉鎖が得られることがあります。下記のような450um程度の黄斑円孔も、辺縁なでなで法できれいに閉鎖しています(通常剥離のみでも閉鎖した可能性もありますが)。
そのため、現時点での個人的な術式の選択は、
①450um以下の黄斑円孔(強度近視眼では400um以下)→通常の内境界膜剥離
②450~500umの黄斑円孔(強度近視眼では400~450um)→通常の内境界膜剥離+辺縁なでなで法
③500um以上の黄斑円孔(強度近視眼では450um以上)→内境界膜翻転法
としております。