10月10日ー10月23日に執刀した手術は、①白内障手術 19件、②白内障硝子体同時手術 10件、③緑内障手術(線維柱帯切除術) 2件、でした。本日執刀した線維柱帯切除術の患者様は、続発緑内障のため30mmHg以上の眼圧が持続し、視野が急激に悪くなってきており早晩失明に至るリスクが極めて高い方で、多摩地区の総合病院より手術依頼でご紹介いただき、緊急で手術となりました。また、武蔵野地区の眼科様より裂孔原性網膜剥離のご紹介があり、緊急の硝子体手術も行いました。

さて、緑内障手術はいくつかの手術方法がありますが、大きく分けてシュレム管からの流出路(主経路)を再建する流出路再建術と、房水を眼外に逃がすことで眼圧を下げる濾過手術に大別されます。流出路再建術はシュレム管以降の経路が機能していれば効果が期待できますが、既にシュレム管から先の経路が閉塞・狭窄している場合には無効であり、また眼圧下降効果は濾過手術と比較するとマイルドと言われています。そのため、多くの病型に対して適応となり、また眼圧下降効果の優れる線維柱帯切除術は、きっちり眼圧を下げる必要がある場合において最も標準的な術式ですが、近年では濾過手術の中でも、線維柱帯切除や周辺虹彩切除を行わなくて良いチューブデバイスが複数使用可能になっています。では、線維柱帯切除術とチューブシャント手術はどのように使い分ければ良いのでしょうか?

2012年に、アメリカの高名な眼科雑誌であるAmerican Journal of Ophthalmologyに、線維柱帯切除術とバルベルトチューブシャントのランダム化比較試験の5年間での結果の比較の報告が掲載されました(Treatment outcomes in the Tube Versus Trabeculectomy (TVT) study after five years of follow-up. Am J Ophthalmol 2012)。この報告は、以前線維柱帯切除術か白内障手術の両方もしくはどちらかを施行され、その後眼圧コントロールが不良である212名212眼を対象とした比較試験です。不成功の定義を5年後の眼圧が21mmHg以上・眼圧下降20%未満・眼圧5mmHg未満・再手術・光覚消失とし、2群で比較したところ、線維柱帯切除術では46.9%が不成功だったのに対して、バルベルトチューブシャントは29.8%であり、バルベルトの方が成功率が高い結果でした。一方で、5年後の平均眼圧は線維柱帯切除術で13.3mmHg、バルベルトで14.4mmHgであり、線維柱帯切除術の方が良好だったものの有意差はありませんでした。この報告を受け、線維柱帯切除術よりチューブシャントの方が優れているという意見が台頭しましたが、この報告は初回線維柱帯切除術不成功症例が多く含まれており、初回手術において線維柱帯切除術ではなくチューブシャント手術を選択すべきという根拠にはなり得ないとも考えられました。

2022年に、アメリカの高名な眼科雑誌であるOphthalmologyに、初回手術における線維柱帯切除術術とバルベルトチューブシャント手術のランダム化比較試験による5年間の成績の比較をした報告が掲載されました(Treatment Outcomes in the Primary Tube Versus Trabeculectomy Study after 5 Years of Follow-up. Ophthalmology 2022)。この報告(PTVT study)は、242名242眼の初回手術緑内障患者を対象としたもので、線維柱帯切除術群117眼、バルベルト群125眼で比較検討されました。不成功の定義は上記のTVT studyと同様であり、結果は驚くべきことに線維柱帯切除術では不成功率が35%だったのに対してバルベルト群では42%と、線維柱帯切除術群の方が良好な成績でした。5年後の平均眼圧は線維柱帯切除術群では13.0mmHg、バルベルト群では13.4mmHgと有意差はありませんでした。術後点眼治療を必要とした割合も線維柱帯切除術群の方が少なく、全体として線維柱帯切除術の方が良好な成績となっています。

以前から初回手術においては線維柱帯切除術の方がチューブシャントより良いのではないかと言われていましたが、ランダム化比較試験においても初回手術での線維柱帯切除術の優位性が示されたことになります。そのため、私も現在は眼圧下降をきっちり行うべき症例(特殊症例は除く)においては初回手術は線維柱帯切除術を選択しています。