7/3~7/9に執刀した手術は、①白内障手術 14件、②白内障硝子体同時手術 2件、でした。この週は眼軸長32mmの最強度近視の方と、眼軸長18.9mmの最強度遠視の方の両眼手術を行い、白内障手術が多い週ではあったものの濃い内容でした(最強度近視の方はマイナスレンズを、最強度遠視の方は+38Dという超ハイパワーレンズ使用しました)。
さて、表記の緑内障レーザー治療であるSLTについてですが、近年緑内障の導入治療として再注目されており、学会等でも報告が増えてきてます。緑内障診療ガイドライン(現在第5版)においては、SLTは薬物治療を行っても目標眼圧を達成できない時や、薬物治療が行えない時に検討するという位置付けになっています。しかし、薬物治療を長期に渡って行っていた眼圧コントロール不良の緑内障眼では、線維柱帯の流出が相当悪化しており、そのためシュレム管の先の集合管が既に狭くなってしまっていて、線維柱帯の流出が良くなっても眼圧が下がらない段階に至っていることも多くあります。そのため、点眼治療で眼圧が下がらない段階でSLTを行い、線維柱帯の流出を改善しても、効果が乏しくなってしまう可能性が高まります。SLTは、原理的には未治療の緑内障に対して行うと最も効果が期待できることは推測されていましたが、未治療例に対する報告が乏しかったため推奨されてきませんでした。
そのような中、2019年に超一流医学雑誌であるLancet誌に、原発開放隅角緑内障と高眼圧症を対象とした導入治療としてのSLTと点眼治療を比較した多施設ランダム化比較試験の結果が報告されました(Selective laser trabeculoplasty versus eye drops for first-line treatment of ocular hypertension and glaucoma (LiGHT): a multicentre randomised controlled trial. Lancet 2019)。その報告では、治療開始後3年の時点で、SLT群の74.2%は点眼治療なしで目標眼圧を達成できており、また点眼治療ありも含めるとSLT群では93%で目標眼圧を達成できたのに対して、点眼治療群では91.3%で目標眼圧を達成できたという結果でした。また2021年には、同じく原発開放隅角緑内障と高眼圧症に対する導入治療において、SLTと0.5%チモロール点眼を比較したランダム化比較試験の結果が報告され、治療開始後1年の時点でSLT群が0.5%チモロール点眼群より目標眼圧達成率が高い結果でした(Selective laser trabeculoplasty versus 0·5% timolol eye drops for the treatment of glaucoma in Tanzania: a randomised controlled trial. Lancet Glob Health 2021)。
これらの報告の後から、緑内障の導入治療におけるSLTの位置付けが見直され、国内でも積極的に行われるようになってきており、当院においても原発開放隅角緑内障、落屑緑内障、ステロイド緑内障を中心に積極的に導入治療として行っております。
SLTの利点は線維柱帯のメラニン色素をターゲットにしており組織破壊がないため、侵襲が極めて少なく、合併症もほとんどないことと、繰り返しの治療が可能なことです。効果は個人差がありますが、下降する方では5mmHg以上眼圧が下降することもあり、非常に有用な治療法だと実感しています。