2025年2月に執刀した手術は、①白内障手術 64件、②白内障硝子体同時手術 17件、③硝子体単独手術 8件、でした。2月は網膜剥離の緊急手術が7件ありました。
さて、今回は緑内障と血圧の関係について述べたいと思います。緑内障の発症や悪化において、眼圧が最も大きな因子であり、進行を抑えるためには眼圧の管理が最も重要であることは周知の事実です。しかし、眼圧は緑内障の悪化因子の一つに過ぎず、他にも多くの要因が関与している可能性が多数報告されています。加齢も緑内障悪化要因の一つであり、そのためどれだけ眼圧コントロールが良好であっても、緑内障の悪化を完全に止めることはできません。また眼血流や酸素分圧も、緑内障への影響が明らかになってきています。血圧は眼血流に関わる因子であり、これまで緑内障の進行と血圧の関係については多くの報告がありましたが、血圧の評価が日中一時点でのみであるなど、血圧の評価の点で不十分と思われる報告が多い状況でした。ただ、睡眠時を含め終日にわたって血圧をモニタリングすることは、高血圧治療の研究であれば研究参加者の募集やモチベーションの維持もそれほどハードルは高くありませんが、緑内障患者さんではハードルが非常に高くなることが推察されるため、やむを得なかったものと思われます。
2019年に、アメリカの高名な眼科学術誌であるOphthalmologyに、正常眼圧緑内障(NTG)患者における、24時間持続測定された血圧と視野障害の進行の関連を解析した論文が報告されました(Baseline Systolic versus Diastolic Blood Pressure Dip and Subsequent Visual Field Progression in Normal-Tension Glaucoma. Ophthalmology. 2019)。この研究では、入院環境下で30分ごとに収縮期血圧、拡張期血圧、心拍数を24時間持続して計測し、その後2年にわたる視野の結果を追跡して、視野悪化群と視野非悪化軍で、収縮期血圧・拡張期血圧・日中の血圧の落ち込み(平均からの差)・夜間の血圧の落ち込み(平均からの差)・眼圧、について多変量解析で比較検討されました。結果としては、両群とも眼圧は有意差はありませんでしたが、視野悪化群において、
・夜間の収縮期血圧、拡張期血圧が有意に低い
・日中の収縮期血圧幅、拡張期血圧幅が有意に大きい
・夜間の収縮期血圧の落ち込み、拡張期血圧の落ち込みが有意に大きい
・夜間の収縮期血圧の落ち込み、拡張期血圧の落ち込み時間が有意に長い
という結果でした。一方で、日中・夜間とも最高収縮期血圧や最高拡張期血圧には有意差は見られませんでした。さらに、上記の中でも特に夜間を通じての拡張期血圧が低いことと、夜間の拡張期血圧の落ち込みが大きいことが、最も進行に関わる因子であったことが明らかになりました。

拡張期血圧は、組織への血液の灌流において主要因子であることが、脳や腎臓、心臓など様々な組織で報告されています。本研究では、拡張期血圧が60-70mmHg以下でより視野悪化の割合が高かったという結果でした。高血圧は心血管イベントのリスクを上げるため適切な管理が必要であり、近年生活習慣病の増加に伴い血圧下降薬を内服している患者さんも増えてきておりますが、高齢者においては血管の弾性の低下に伴い、血圧治療によって収縮期血圧と比較して拡張期血圧が過剰に下降することも稀ではありません。血圧は眼科医が介入することは難しい領域ではありますが、眼圧が良好であっても視野悪化のスピードが早い症例においては、こういった背景があり得ることは認識しておくとよいのではないかと思われます。また血圧の他に、喫煙や睡眠時無呼吸症候群も緑内障悪化の要因として知られてきておりますが、これらに関しては別の機会に述べられればと思います。