2/19ー3/10に執刀した手術は、①白内障手術 40件、②白内障硝子体同時手術 12件、③硝子体単独手術 4件、④硝子体手術+眼内レンズ強膜内固定術 1件、⑤白内障手術+緑内障手術(流出路再建術)2件でした。この期間は裂孔原性網膜剥離の緊急手術を2件行いました。
さて、今回は白内障と認知症の関連について述べたいと思います。白内障は水晶体が濁ることで視力低下や見づらさの原因となる疾患であり、発展途上国においては未だ主な失明原因となっています。白内障による視力低下や見づらさのため、生活の質が低下したり、読書などの日常活動の頻度が減ったりすることに繋がるため、白内障は認知症発症に関わる要因になると考えられますが、白内障と認知症の関連を述べた論文も多数報告されてきています。
2022年のJAMA Internal Medicineという非常にインパクトファクターの高い(≒質の高い)ジャーナルに、65歳以上の白内障と診断された3018人を対象に、1994年から2018年までの22年間において、白内障手術を受けた群と受けていない群で認知症発症のリスクを比較した論文が報告されました(Association Between Cataract Extraction and Development of Dementia. JAMA Intern Med. 2022)。この論文では、多変量解析にて認知症に関わるAPOE遺伝子型、学歴、喫煙歴、人種などの要因を取り除いた上で、白内障手術を受けた群において手術を受けなかった群と比較して認知症発症リスクが約0.7倍に低減したと報告されています。同時に、緑内障手術に関しても認知症発症リスクへの影響があるのかどうか評価されましたが、緑内障手術に関しては認知症発症に影響しなかったという結果でした。また、2024年にはEur J Clin Investというヨーロッパのジャーナルから、認知症と白内障手術の関連を報告した論文のメタアナリシスを行った論文が報告されました(Associations of cataract, cataract surgery with dementia risk: A systematic review and meta-analysis of 448,140 participants. Eur J Clin Invest. 2024)。この報告では、複数の報告の計448140人を対象としたメタアナリシスにおいて、白内障は認知症リスクを1.2倍から1.3倍上昇させ、白内障手術は認知症リスクを0.74倍に低減すると報告されています。
白内障は見え方だけに影響すると思われがちですが、見え方の悪化から認知症発症や、転倒による骨折リスク増大など、高齢者にとっては健康寿命に大きく影響しうるものです。これらのことからも、白内障はあまり進行するまで放置することは望ましくなく、視力低下や見づらさの症状が出始めた段階で手術を検討する必要があると思われます。