11/20ー12/3に執刀した手術は、①白内障手術 20件、②白内障硝子体同時手術 10件、③硝子体単独手術 2件、④硝子体手術+眼内レンズ強膜内固定術 2件(2例とも眼内レンズ脱臼)でした。この期間は眼内レンズ脱臼が2例ありましたが、シリコンレンズが1例、アクリルレンズが1例で、アクリルレンズの患者様は眼内レンズ脱臼に伴い高眼圧が持続していたためご紹介いただき、準緊急での手術となりました。

眼内レンズ脱臼の手術では、水晶体の支えであるチン小帯が広範囲に断裂しており、眼内レンズの縫着または強膜内固定が必要となりますが、多くの場合で元々眼内に入っている人工レンズはこれらの処置に適さないため、既に入っているレンズを摘出し、新しいレンズを再挿入して固定し直す必要があります。眼内レンズは挿入時にはインジェクターに格納されたレンズを折りたたんだ状態で入れられるため容易ですが、摘出の際は眼の中でレンズを切断したり、広がっているレンズを眼内で折りたたんだりする必要があり、挿入時と比較して難しい操作となります。また硝子体腔に落下している時には、前房まで持ち上げてくる必要があり、非常に難易度の高い処置となります。入っている眼内レンズの種類によっても摘出のし易さは変わり、切断や折りたたみのし易いアクリルレンズは摘出しやすく、サイズの大きなプレート型レンズや、滑りやすく把持の難しいシリコンレンズ、切断ができないPMMAレンズは摘出が難しいレンズです。さらに、眼内レンズ縫着術や強膜内固定術も、通常の白内障手術より極めて細かい作業であり、難易度の高い手術です。そのため、白内障手術を行う眼科医の中でも、行えるのは一部なのが現状です。

では、眼内レンズの偏位や脱臼はどれくらいの頻度で生じるのでしょうか?日本では大規模なデータはありませんが、2021年に韓国からほぼ全国民を対象とした国民健康保険大規模データベースに基づいた2009年から2016年までの期間における眼内レンズ脱臼の発生率について報告がされました(Incidence and Characteristics of Intraocular Lens Dislocation after Phacoemulsification: An Eight-Year, Nationwide, Population-Based Study. J Clin Med 2021)。この論文では、40歳以上の約2500万人の韓国民の中で、390万眼(260万人)が眼内レンズ挿入眼であり、そのうち約72000眼が8年間の間に眼内レンズ偏位によって再手術が必要になったと報告されています。患者1人あたり2.7%、手術1件あたり1.8%の頻度であったと報告されており、100人あたり2-3人は8年の間にレンズ偏位を生じていることから、かなり高い頻度であるという印象を受けました。

白内障手術の普及と一般化ならびに、高齢化・白内障手術後の生存期間の長期化に伴い、今後も眼内レンズ偏位や脱臼の頻度は増加していくことが予想されます。現在の白内障標準術式である超音波乳化吸引術が行われ始めた頃には、白内障手術は一部の眼科医のみが行える特別な手術でした。しかし白内障手術が普及するに連れて、現在では多くの眼科医が行い、また眼科研修医がはじめに取得する手術となってきています。眼内レンズ偏位・脱臼は、現在は手掛ける施設はごく一部であり、白内障手術を行う施設でも対応できるところは限られますが、稀な合併症ではなくなってきており、今後もさらに頻度は増加していくことが予想される中、白内障手術を手掛ける施設では対応していく必要があると思われます。