2023年より国内でもプリザーフロマイクロシャントという緑内障手術デバイスが使用可能になりました。このプリザーフロは濾過手術(線維柱帯切除術やエクスプレス挿入術など)に含まれる手術になりますが、線維柱帯切除術やエクスプレス挿入術と比べると、低侵襲で簡便に行えるという特徴があります。

線維柱帯切除術やエクスプレス挿入術は、強膜フラップを作成するという繊細な手技が必要で、さらに線維柱帯切除術では線維柱帯を切除する際に前房水の流出が起こるため、手術中の眼圧の変動が非常に大きくなり、眼への侵襲も大きくなります。一方プリザーフロは強膜フラップ作成を行う必要がなく、結膜切開をした後にプリザーフロを挿入し、結膜縫合をするのみで良いため、非常に簡便で侵襲も少なく行なえます。治療成績としては、アメリカ合衆国において、軽度から重度の原発開放隅角緑内障患者で、最大耐用量の緑内障治療薬で眼圧のコントロールが不十分かつ投薬時の眼圧が15mmHg以上、40mmHg以下である合計527例をプリザーフロ群と線維柱帯切除群に割り振った比較検討の報告があり、術後12ヶ月でベースライン眼圧から20%以上の下降が得られた率はプリザーフロ群で54.7%、線維柱帯切除群で72.7%と線維柱帯切除群の方が眼圧下降効果は優れていたものの、プリザーフロ群においても術前平均眼圧21.1mmHgから14.3mmHgまで下降しており治療効果は示されています。一方で術後低眼圧はプリザーフロ群で有意に少ない結果であり、「線維柱帯切除よりは劣るものの眼圧下降効果は良好で、安全性は高い」ということになるかと思われます。そのため、プリザーフロの位置づけとしては、「術前眼圧20mmHg以上で目標眼圧は10台半ば程度や、術前眼圧が10台後半で目標眼圧が10台前半」という患者様が主な対象になり、「術前眼圧20mmHg以上で目標眼圧が10mmHg程度」や「術前眼圧が25mmHg以上」というような患者様には従来どおり線維柱帯切除が主な選択肢になるかと思われます。

当院で行っている緑内障手術のうち、濾過手術のカテゴリーに含まれるものは、線維柱帯切除術、エクスプレス挿入術、プリザーフロですが、プリザーフロは手術翌日の眼の状態が手術を行ったとは思えないほどきれいな状態であり、極めて低侵襲な手術です(白内障同時手術は現状まだ推奨されていません)。今後、血管新生緑内障を除き、初回手術はプリザーフロが主な術式になっていくものと思われます。エクスプレス挿入術は以前よく行っていましたが、手術後短期的には非常に眼圧コントロールが良いものの、ある程度時間がたつとデバイス内の閉塞のためと思われる眼圧再上昇が見られることが多く、最近はほとんど行わなくなっています。プリザーフロは使用され始めてまだそれほど時間がたっていないため、長期的な眼圧経過がまだ不透明な面もありますが、低侵襲であり、セカンドラインとして線維柱帯切除術やアーメドバルブ/バルベルトといった術式を持ち得るのであれば、初回手術して非常に有力な選択肢だと思われます。