8月28日~9月10日に執刀した手術は、①白内障手術 21件、②白内障硝子体同時手術 3件、③硝子体単独手術 1件、でした。
近年、白内障手術は手術機器の性能の向上や手術手技の洗練に伴い、難症例を除く通常例では安全性の極めて高い手術になってきています。そのため、白内障手術は単に白内障の濁りを取り除いて見やすくするという意味合いのみにとどまらず、屈折矯正手術としての一面も強くなってきています。手術自体は問題なく終了したとしても、手術後に患者さんの期待したような屈折にならなければ、残念ながら期待した通りの満足度は得られません。眼内レンズの度数計算は予測式を用いて計算を行い、患者さんごとの希望の焦点距離に応じた度数を選択しますが、近年ではこの予測式も次々とバージョンアップされています。そのため、白内障手術に携わる眼科医は、手術手技のみならず、予測式についても適宜アップデートしていく必要があります。
眼内レンズの予測式については、代表的なものは眼軸長測定機器の中に搭載されており、2021年の日本白内障学会(JSCRS)が行ったアンケート(複数回答あり)では、SRK-T式(80.8%)、Barret Universal 2式(64.2%)、Haigis式(37.1%)の順で多かったとされています。SRK-T式は、眼軸長に角膜屈折力も加えて術後のレンズ位置を予測する式であり、30年以上の実績があります。実績が非常に多いため標準的な眼軸長の眼では高い精度が期待できますが、強度近視を代表とする長眼軸長眼や、短眼軸長眼では屈折誤差が大きくなる傾向にあります。Barret Universal 2式は、1987年に公表されたBarret Universal 1式の進化系であり、詳細は非公表ではあるもののray tracing理論に基づいていると言われています。近年の眼内レンズ計算の精度を報告する論文では最も精度が高い式として挙げられることが多く、長眼軸長眼や短眼軸長眼でも精度が高い式です。さらに、この式をベースとしてBarret True K式など屈折矯正術後眼や円錐角膜眼にも対応する式も開発されており、様々なケースで高い精度が期待できる極めて優秀な予測式です。JSCRSアンケートでは使用している眼科医は少なかったものの、Olsen式も非常に精度の高い式として注目されています。
また、近年ではAIに基づく眼内レンズ計算式も発表されてきています。AIを使用した式としては、2016年に発表されたHill-RBF式やKane式があり、これらは症例が増えるに従い学習を重ねていく特徴があり、症例数の増加に伴い精度が増していくという特徴があります。Kane式は円錐角膜計算モードも有しており、屈折誤差の生じやすい円錐角膜においても高い精度が期待できます。
このように、現在は眼内レンズの度数計算においても非常に多くの選択肢がある状況です。一方で、式の選択によっては屈折誤差が大きくなることもありますので、症例ごとに各式の特性を考慮した上で使い分けをしていく必要があり、複数の式の結果を照らし合わせてレンズ度数を決定していく必要があることもあります。
当院では、メインの式としては近年で最も精度が高いと言われているBU-2式を用いています。眼軸長・角膜屈折力ともに標準的な眼では、BU-2式に加えて標準眼で多くの実績のあるSRK-T式も併用しています。多焦点レンズなどさらに高い精度が求められる眼内レンズを使用する場合には、Hill-RBF式やKane式をも併用します。長眼軸長眼や短眼軸長眼においては、SRK-T式では精度が期待できないため、BU-2式に加えてHill-RBFやKane式を併用しています。屈折矯正手術眼では、Barret True K式を主に使用し、症例によりHaigis式を併用することがあります。
眼内レンズの度数計算は非常に進歩の早い領域です。しかし術後の屈折度の精度を上げることは手術後の患者満足度に直結するため、常にアップデートをしていく必要があると考えます。