2025年11月に執刀した手術は、①白内障手術 76件、②白内障硝子体同時手術 14件、③硝子体単独手術 3件、④緑内障手術+白内障手術 2件(プリザーフロマイクロシャント)、でした。11月は裂孔原性網膜剥離の緊急手術が2件ありましたが、増殖性硝子体網膜症になりつつある症例と、90度以上の巨大裂孔を原因とした巨大裂孔網膜剥離であり、難易度の高い手術となりました。

さて、今回は近視と緑内障の関連について述べたいと思います。
「近視があると緑内障になりやすいらしい」そんな話を一度は耳にしたことがあるかもしれません。

このテーマは、近年の大規模研究やメタ解析(複数論文を統合評価する方法)でエビデンスが示されてきています。本記事では、インパクトファクター(IF:高いほど引用数が多く、信頼できるジャーナルであると評価される)が高い主要論文を中心に、これまで示されてきた科学的知見を整理したいと思います。また最近提唱されている近視性視神経症という概念と、実臨床における対応についても触れていきます。

■ 結論:近視、とくに強度近視は緑内障リスクを高める

  • 近視全体で POAG(開放隅角緑内障)リスクは約2倍(系統的レビュー/メタ解析)
  • 強度近視ではリスクが数倍に跳ね上がる(ただし近視性視神経症も含まれている可能性あり)
    近年の10年追跡研究では「7.3倍」という具体的な数字も報告

緑内障は主に眼圧によって視神経が徐々に障害を受け、視野が欠けていく病気ですが、近視眼では眼圧に対して脆弱性が高いと考えられます。

■ なぜ近視で緑内障が増えるのか? ― 構造の“弱さ”が原因と考えられる

  • 眼軸長が伸びると視神経の構造が変形

  近視、とくに強度近視では眼球が前後に長く伸びます。この眼軸の伸長により、
   ・視神経乳頭(神経が出ていく場所)が変形
   ・周囲の結合組織が薄くなる
   ・神経線維層(RNFL)が不均一になる
   ・これらは、同じ眼圧でも視神経が傷つきやすい「弱い構造」を生むと考えられています。

  •  視神経の周囲の血流変化

  眼軸長の伸展によって微小血流の変化が起こり、酸素・代謝ストレスに弱い状態になるという仮説もあります。

インパクトファクターの高い文献リスト

  1. Marcus MW, et al. Myopia as a Risk Factor for Open-Angle Glaucoma: Systematic Review and Meta-analysis. Ophthalmology. 2011
    (主要メタ解析) — 近視がPOAGリスク約2倍を示す。臨床的エビデンスの集約。
  2. Perera SA, et al. Refractive error, axial dimensions, and primary open-angle glaucoma. JAMA Ophthalmology. 2010
    眼軸長や屈折異常とPOAGの関連を解析した人口ベース研究(アジア集団含む)。
  3. Wang YX, et al. High myopia as risk factor for 10-year incidence of open-angle glaucoma. British Journal of Ophthalmology. 2023
    長期追跡で強度近視が強いリスク増であることを示したコホート研究(例:7.3倍)。
  4. Zhang X, et al. Optic neuropathy in high myopia: Glaucoma or high myopia or both? Progress in Retinal and Eye Research. 2024
    総説。強度近視における視神経病変の特徴と緑内障との鑑別について最新の総括。診断困難性と評価上の留意点を詳述。

■ 近視性視神経症との鑑別は?

一方で、近年では強度近視に伴って生じる視神経症は、「近視性視神経症」として緑内障とは区別して考えるべきという説も提唱されてきています。近視性視神経症は、眼軸延長を主とした眼球の構造変化に伴い、視神経にも引っ張られる力が加わる事で視神経障害が生じるという病態であり、眼圧とは関係なく視神経障害が進む視神経症と考えられています。とはいえ、臨床の現場では近視性視神経症と緑内障性視神経症を明確に区別することはできません。視神経の見た目で区別できるものでなければ、視野所見でも区別はできず、また両者がオーバーラップすることもあり得ると考えられます。さらに、近視性視神経症は眼圧が無関係だとすると、そもそも治療法がありません。そのため実臨床では、近視性視神経症と思われる症例でも、緑内障として眼圧下降治療を行っていくことになります。強度近視で緑内障として治療を行っている方の中には、眼圧が極めて低く維持できているにも関わらず視野がどんどん悪化する症例もあり、このような症例は恐らく近視性視神経症なのだろうと感じることがあります。学術的には別病態であっても、実臨床においては鑑別する意義が大きくないということも多々あり、近視性視神経症は緑内障として対応するのが臨床における実際の対応となります。