2025年10月に執刀した手術は、①白内障手術 72件、②白内障硝子体同時手術 12件、③硝子体単独手術 2件、④硝子体手術+眼内レンズ強膜内固定術 2件(無水晶体1件、眼内レンズ脱臼1件)でした。

緑内障の患者さんの診療時には、「緑内障の手術って、どのタイミングで受けたらいいんですか?」と質問されることが多くあります。緑内障はゆっくり進行する病気で、初期の頃には自覚症状がほとんどありません。自覚症状が出る頃にはかなり進んでしまっていることが多くあります。また一度障害を受けた視野は戻すことができず、緑内障自体は多くの場合、根治的に治る病気ではありません。そのため、生涯にわたって付き合っていく必要がある病気であり、治療の目的は「できるだけ長く(可能なら生涯にわたり)視野を維持する」ことになります。そのために行う治療が、眼圧下降治療になります。緑内障の手術について多くの方が誤解している点になりますが、手術は緑内障自体を治す治療法ではなく、「眼圧下降のための手段の一つ」という位置づけになります。

眼圧下降治療は、多くの場合点眼治療もしくはレーザー治療から開始します(「ブログ:緑内障のレーザー治療(選択的線維柱帯形成術:SLT)」もご参照下さい)。しかし、点眼治療やレーザー治療でも眼圧が十分に下降しないときや、視野の悪化が止まらないときは、手術が次の選択肢となってきます。ただ、手術を考えるに当たっては、眼圧や視野の状態だけでは決められません。実際には下記のような要素を見て総合的に考えていきます。

・視野が悪いほど、眼圧が高いほど積極的に考慮
点眼やSLTを行っても眼圧が20mmHgを超えている場合、視神経へのダメージが進むリスクが高く、視野が初期から中期でも手術を検討すべきことがあります。これは特に、原発開放隅角緑内障(POAG)落屑緑内障(Exfoliation glaucoma)、ぶどう膜炎など他の疾患に続発して生じる続発緑内障のように、元々の眼圧が高いタイプで見られやすい状態です。眼圧が高い場合には、視野の悪化がある程度の速度であることが確認できた時点で、たとえ初期から中期であっても手術を検討すべきです。また、難治性緑内障である血管新生緑内障は、新生血管を退縮させるための汎網膜光凝固や抗VEGF療法などの治療を行っても眼圧下降が持続できないことが多いため、眼圧が下降しない時点で視野の程度に関わらず、すぐ手術を検討することがほとんどです。
また、眼圧は20mmHg以下であったとしても視野が中期から末期になってきている場合には手術を考慮すべきです。それまでの視野の悪化の速度にもよりますが、MD値で言うと-20dBから日常生活に支障が出始め、-30dBで失明に近い状態と言われますので、眼圧が20mmHg以下であっても、-20dBを超えてきており、-0.5~-1dB/年以上の速度で悪化しているようであれば、さらに眼圧を下げる必要があると考え手術を検討します。一方、眼圧が10台前半で落ち着いているにも関わらず視野が悪化していくようなケースでは、眼圧以外の要因(睡眠時無呼吸症候群や喫煙など)の関与も念頭に置きつつ手術については慎重に考えていきます。

・年齢が若いほど積極的に考慮
若いほど、これから生きる時間が長いため、現時点での少しの進行が将来的に大きな視野障害につながる可能性が高くなります。若い患者さんで、治療を行っても眼圧が高値が続く場合、視野が初期であっても「まだ初期だから様子を見よう」ではなく、早期に眼圧をしっかり下げておくことが、将来的に視野を維持する上で大切となります。

・他の病気とのバランスやもう片眼の状態を考えた上で考慮
一方で、すでに高齢であったり、癌など生命予後を左右する病気がある場合は、予後を考慮して「あと何年程度視野を守るか」という方針を医師と相談することも大切です。例えば、80代後半で根治不能癌を患っている患者さんの場合、MD-20dB程度の末期緑内障で眼圧が20mmHg程度と高かったとしても、失明やそれに近い状態に至るまでは5年程度は要すると予想されます。そのため、期待される生命予後がそれ以下であれば、手術は行わず点眼治療の継続などの保存的治療で様子を見ていくことが妥当という判断となりますし、もう片眼がもし相対的に視野が良い状態であれば、悪い眼に対して手術を選択する必要性はより低くなります。手術はあくまで、「その人の人生に合わせた視野を保つための手段」です。

緑内障手術の手術方法はいくつかの種類があります。大別すると、元々の房水の流出路(主経路)を生かす「流出路再建術」か、新たに房水の流出路を作成する「濾過手術(チューブシャント含む)」かに分かれます(手術の種類については、「緑内障」の項目もご参照下さい)。手術術式の選択は病型や眼圧・視野の状況に応じて検討しますが、いずれの手術方法についても、手術後に期待したほど眼圧が下がらなかったり、手術から時間が経つと再度眼圧上昇してきたりすることもあります。ニードリングなどの追加処置や再手術が必要となることも稀ではなく、「手術をしたから安心」という訳にはいきませんので、「手術は緑内障治療の再スタート」という気持ちで手術を受けていただく必要があると考えます。