2025年9月に執刀した手術は、①白内障手術 51件、②白内障硝子体同時手術 19件、③硝子体単独手術 4件、④硝子体手術+眼内レンズ強膜内固定術 1件(無水晶体)、⑤緑内障手術(プリザーフロマイクロシャント)1件でした。8月は裂孔原性網膜剥離の緊急手術を2件行いました。

さて、高齢化に伴い白内障の罹患率は上昇してきております。白内障は見づらくなることにより生活の質が下がることが問題となりますが、高齢者においては見づらいことで転倒に繋がることも多く、また転倒が原因で骨折を生じ、さらに寝たきりにまでなってしまうケースもあります。では、白内障と転倒はどの程度因果関係があるのでしょうか?

イギリスのCPRDを用いた大規模なコホート研究で、白内障、加齢黄斑変性、緑内障と転倒の因果関係を解析した論文が、2024年にアメリカの高名な眼科ジャーナルであるJAMA Ophthalmologyに掲載されました(Risk of Falls and Fractures in Individuals With Cataract, Age-Related Macular Degeneration, or Glaucoma. JAMA Ophthalmol. 2024)。この報告では、白内障罹患者は転倒(ハザード比 1.36)/骨折(ハザード比 1.28)のリスク上昇が示されました(年齢・併存疾患等で調整)。なお、加齢黄斑変性、緑内障でも同様に転倒・骨折リスクの増加が示され、加齢黄斑変性罹患者は転倒(ハザード比 1.25)/骨折(ハザード比 1.18)のリスク上昇、緑内障罹患者は転倒(ハザード比 1.38)/骨折(ハザード比 1.31)のリスク上昇であったと報告されています。

また、2019年の台湾からの報告では、白内障あり群は追跡で骨粗鬆症・各種骨折リスクが高く、追跡期間6.4年の間で、白内障手術を受けた群は骨折/骨粗鬆症リスクが低下(aHR ≈ 0.58)したという結果が示されました(Association Between Cataract and Risks of Osteoporosis and Fracture: A Nationwide Cohort Study. J Am Geriatr Soc. 2019 )。

白内障により転倒が増える原因としては、主な視覚要因として、
グレア(まぶしさ)への感受性増加:夜間や逆光での視認性低下。
視力低下(遠見・近見):障害物の認識が遅れる。
コントラスト感度低下:薄暗い場所や段差を見落としやすい。
ステレオ(両眼視)・深視力の障害:段差・階段で足の位置を誤る。
等が考えられています。

白内障は局所麻酔の短時間で手術で改善できる疾患ですので、白内障が原因の転倒・骨折で寝たきりにまでなってしまうことは、社会的・経済的に大きな損失であると言えます。また以前のブログでも述べましたが、白内障は認知症とも相関があり、手術をすることで認知症のリスクが下がることも明らかにされています。白内障手術により生活の質や活動度が上がり、健康寿命の延長が期待できると言えるでしょう。そのため、高齢者で白内障による視力低下や見づらさが進んできている場合には、放置せず手術をすることが望ましいと言えます。