2025年4月に執刀した手術は、①白内障手術 75件、②白内障硝子体同時手術 12件、③硝子体単独手術 5件、④硝子体手術+眼内レンズ強膜内固定術 1件(眼内レンズ脱臼)、⑤白内障手術+緑内障手術(流出路再建術) 2件、⑥緑内障手術(プリザーフロ挿入術) 1件、でした。

緑内障は「視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である」と定義されており、緑内障の発症や悪化において、眼圧が最も大きな因子であり、進行を抑えるためには眼圧の管理が最も重要です。しかし、眼圧は緑内障の悪化因子の一つに過ぎず、他にも多くの要因が関与している可能性が多数報告されています。例えば加齢も緑内障悪化要因の一つであり、そのためどれだけ眼圧コントロールが良好であっても、緑内障の悪化を完全に止めることはできません。

以前から喫煙に関しても緑内障の悪化要因ではないかと考えられており、喫煙と緑内障の発症や進行との関連を研究した報告も多数あります。YeeとAdkinsらは、19件の観察研究(コホート・症例対照・横断研究)を対象としたシステマティックレビュー・メタ解析を行い、喫煙(現在・過去・総合いずれも)と原発開放隅角緑内障の発症リスクに有意な関連は認められなかった(現在喫煙 オッズ比0.96、過去喫煙 オッズ比0.96、いずれも95%CIに1含む)と報告しています(Cigarette Smoking and its Association with Primary Open Angle Glaucoma: A Systematic Review and Meta-Analysis. Ophthalmic Epidemiology. 2024)。一方で、Perez-de-ArcelusらによるスペインSUNコホート研究(16,797人、追跡8.5年)では、喫煙者は非喫煙者に比べ緑内障発症リスクが約1.9倍高かった(調整後ハザード比1.88, 95%CI 1.26–2.81)と報告しています(Smoking and incidence of glaucoma The SUN Cohort. Medicine. 2017)。喫煙が緑内障の発症リスクを上げるという報告も多い一方で、関連がないと結論付けた報告や、逆に喫煙が保護的に働くと示唆した報告もあります。

では、緑内障の進行・悪化と喫煙の関連についてはどうでしょうか。UKGTS(英国緑内障治療試験)というランダム化試験では、喫煙(現在・過去問わず)が視野悪化リスクを有意に低減した(HR=0.59, 95%CI 0.37–0.93)との結果が報告されました(Risk Factors for Visual Field Deterioration in the United Kingdom Glaucoma Treatment Study. Ophthalmology. 2020)。また、Mamoudinezhadらによる後ろ向き縦断研究(原発開放隅角緑内障患者354人・フォロー期間12.5年)では、ヘビースモーカー(20年以上)が中・軽度喫煙者や非喫煙者に比べて視野進行率が高く、20pack-year超群は非喫煙者の約2.2倍の進行オッズを示した(OR=2.21, 95%CI 1.02–4.76)と報告しています(Impact of Smoking on Visual Field Progression in a Long-term Clinical Follow-up. Ophthalmology. 2022)。緑内障の進行に関しては、喫煙が進行のリスクにならないという報告は乏しく、喫煙が保護的に働くという報告は見当たらなかったため、喫煙がリスク因子になると考えられます。

Impact of Smoking on Visual Field Progression in a Long-term Clinical Follow-up. Ophthalmology. 2022.より引用

以上から、喫煙はと緑内障の関連については、
・喫煙は緑内障発症リスクを上げる可能性が高い。
・喫煙は緑内障悪化のほぼ明確なリスク要因である。
と言えるかと思います。喫煙は血管収縮や血中酸素濃度の低下を引き起こしますが、緑内障は視神経の酸素分圧低下や血流が大きく影響する病気であるため、発症や悪化のリスクとなることは矛盾のないものと思われます。