8月に執刀した手術は、①白内障手術 62件、②白内障硝子体同時手術 15件、③硝子体単独手術 7件、④緑内障手術(プリザーフロマイクロシャント) 1件、でした。
角膜は眼の表層にある透明な組織ですが、5つの層から構成されています。この角膜の透明性は、最も内側の層にある角膜内皮細胞のポンプ機能により、角膜内の水分量が適切に維持されることで透明性を維持しています。しかし、角膜内皮細胞が減少してしまうと、透明性を維持するためのポンプ機能が損なわれ、角膜に浮腫が生じることで混濁してしまいます。この病態が水疱性角膜症ですが、症状が進行すると高度な視力低下に至ります。また、角膜浮腫の結果痛みを生じることもあります。
角膜内皮細胞は生後ほぼ増えることがありません。そのため、病気や怪我、手術侵襲などの影響で減少してしまうと、再度増えることが期待できません。角膜内皮細胞密度は正常では約3000個/mm2程度ですが、500個/mm2程度まで減少してしまうと、角膜実質内の水分量を適切に保てなくなって浮腫が生じてきてしまい、水疱性角膜症の状態となります。水疱性角膜症に対する治療は、これまで角膜内皮移植以外はありませんでしたが、角膜移植はドナーが必要であり、慢性的なドナー不足のため待機期間が長いことや、拒絶反応が生じうること、移植片には寿命があることなどの問題点がありました。
ネルテペンドセルは、ドナー角膜組織由来の培養ヒト角膜内⽪細胞を含む細胞懸濁液の再⽣医療等製品であり、1人分のドナー角膜から角膜内皮細胞を培養することで、複数患者分の治療量を確保することができる薬剤です。2023年4月に承認後、現場での使用が心待ちにされていましたが、2024年9月に保険収載され、今後徐々に臨床の現場で使用されていくことになると思われます。水疱性角膜症は角膜内皮ジストロフィーなどの疾患で生じるだけでなく、内眼手術後にも生じることがあるため、角膜内皮移植に続く治療が望まれて来ました。今後多くの患者様の福音となることが期待されます。