10/30ー11/12に執刀した手術は、①白内障手術 19件、②白内障硝子体同時手術 9件、③硝子体手術+眼内レンズ強膜内固定術 1件でした。この期間には武蔵野地区の眼科様より裂孔原性網膜剥離の患者様をご紹介いただき、緊急の白内障硝子体同時手術を行いました。

さて、裂孔原性網膜剥離の手術についてですが、手術方法としては大きく分けて強膜内陥術と硝子体手術の2つがあります。増殖性硝子体網膜症のような難治性網膜剥離の場合には、両者を組み合わせて行うこともあります(術式の詳細は裂孔原性網膜剥離の項を参照)。また、裂孔原性網膜剥離の原因としては、大きく分けて弁状裂孔と萎縮円孔に分けられ、それぞれ病態が異なるため、病態の違いも考慮しつつ手術法を選択する必要があります。弁状裂孔による網膜剥離は、硝子体が収縮していく過程で網膜と硝子体の癒着の強いところに牽引がかかって生じます。そのため、硝子体を除去して牽引を解除することができる硝子体手術は理にかなった治療です。一方で、萎縮円孔による網膜剥離は硝子体による網膜の牽引がありません。そのため、硝子体手術は必ずしも適さないことがあります。しかし、手術中に網膜の下に溜まった網膜下液は硝子体手術の方が除去しやすく、強膜内陥術では除去しづらいため、丈の高い網膜剥離に対しては萎縮円孔であっても硝子体手術の方が治療しやすいこともあります。

上記のような背景があり、若年者の後部硝子体剥離が起こっていない萎縮円孔からの丈の低い網膜剥離は強膜内陥術の絶対的適応ですが、それ以外に関してはケースバイケースで判断していく事になり、網膜裂孔・円孔の数や場所ならびに網膜剥離の範囲や丈の高さに加えて、術者のそれぞれの術式に対する熟練度や好みによって選択されることになります。

2016年から2017年にかけて、日本における裂孔原性網膜剥離の手術統計のデータ収集が行われ(Japan-Reteinal Detachment Registry)、強膜内陥術・硝子体手術の両者が適応となる網膜剥離に関して、術式の割合と治療成績が解析されました。初回復位率は全症例で90.8%、強膜内陥術で93.1%、硝子体手術単独で91.8%、併用で68.7%だったと報告されています(併用群で初回復位率が低いのは難治性網膜剥離が多く含まれていたため)。強膜内陥術と硝子体手術の成績は概ね同等と考えて良いと思われます。

また、原因裂孔や網膜剥離の部位やタイプごとに見てみますと、上方の網膜裂孔・円孔による上方網膜剥離は下方の網膜裂孔・円孔による網膜剥離より治療性成績が良好で、下方網膜剥離の中でも特に萎縮円孔による網膜剥離の再発率が高かったことが報告されています。(裂孔原性網膜剥離に対する非復位因子の検討. 日本眼科学会雑誌 2023)

上記を踏まえ、現時点での個人的な術式の選択としては、
① 後部硝子体剥離を伴う弁状裂孔による網膜剥離→部位に関わらず硝子体手術
② 萎縮円孔による網膜剥離 後部硝子体剥離が既にあり丈が高い場合
 上方→硝子体手術
 下方→硝子体手術+強膜内陥術
③ 萎縮円孔による網膜剥離 後部硝子体剥離がなく丈が低い場合→部位にかかわらず強膜内陥術
のようにしています。

なお、ここ2年半の自分の手術成績を遡って見てみたところ、全27例の網膜剥離の手術を行っており、硝子体手術単独が25例、硝子体手術・強膜内陥術併用が2例で、初回復位が得られなかったのは1例のみ(初回復位率96.3%)と、国内統計データと比較しても良好な結果でした。初回復位が得られなかった症例は、下方の萎縮円孔による膨状網膜剥離に対して硝子体単独手術を行った症例であり、最も初回復位がしづらいと言われているタイプでした。今後もできる限り初回復位率を高く保っていけるよう精進していこうと思います。