2025年5月に執刀した手術は、①白内障手術 64件、②白内障硝子体同時手術 15件、③硝子体単独手術 2件、④硝子体手術+眼内レンズ強膜内固定術 1件(眼内レンズ脱臼)、でした。5月は網膜剥離の緊急手術が2件ありましたが、そのうちの1件は黄斑円孔網膜剥離でした。

さて、様々な領域でAIの利用が急速に進んでいますが、医療の世界においてもAIの発達は目覚ましいものがあります。胸部レントゲン読影でのAI活用においては、AIがベテラン医師でも見落とすような軽微な肺癌の異常所見を同定できたという記事が医療専門サイトに掲載されていました。内視鏡や超音波、病理診断など様々な領域でAIの活用が進んできており、今後も更に発展していくことが見込まれます。では、眼科領域におけるAI活用はどうでしょうか?

日本眼科学会は、日本眼科AI学会と一般社団法人Japan Ocular Imaging Registry(JOI Registry)を設立し、AI・ビッグデータ関連の基盤構築ならびにAIを用いた診断補助アプリケーションの開発を進めています。網膜疾患診断補助AIについては、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の指導のもと臨床性能試験が完了し、検診用の網膜疾患AIアプリケーションとして申請予定のようです。眼底写真での網膜疾患の診断は、ビッグデータのdeep leaningにより、熟練した眼科医と同等の診断が可能になってきております。

日本眼科医療機器協会HPより引用

また緑内障診断においても開発が進んでおり、私の母校である東北大学の研究チームは、眼科専門医の診断過程を模した高精度な緑内障スクリーニングAI(AI-GS)を開発しました。このAIは、約8,000枚の眼底写真を用いた検証で、感度93.52%、特異度95%という高精度を達成しています。さらに、AIの判断根拠を数値で示すことで、読影医がAIの診断結果を容易に理解できるようになっています。軽量設計であり、携帯型デバイスへの利用も期待されています 。

前眼部疾患においても開発が進んでいます。細隙灯顕微鏡による前眼部画像のAI診断は、市場で販売開始されるまでかなり明確な見通しができる段階まできているようです。

日本眼科医療機器協会HPより引用

AIはビッグデータを読み込ませやすい画像診断領域が非常に得意であり、光干渉断層計(OCT)や光干渉断層血管撮影(OCTA)などでも今後利用が進んでいくものと思われます。人間の医師においても、診断能力や画像の読影能力は診察数・画像読影数によって高まっていきますが、AIでは人間とは比較にならない量の画像を読み込ませることがかのうであり、また忘れることもありません。そのため、画像診断領域に関しては、既にベテラン医師と同等以上の精度になってきております。今後もますます精度と速度を増していくことが予想され、OCTや眼底カメラの検査機器にAI診断ツールが搭載されるようになっていくのではないかと予測しております。

白内障手術領域においても、AIの活用が進んでいます。眼内レンズ計算式においては、Hill-RBF式というパターン認識を使用した眼内レンズ度数選択のための人工知能ベースの自己検証法を用いた式が使用されています。ビッグデータの蓄積により、更新されるたびに精度を増していきます。

このように、眼科領域においてもAIの活用が急速に進んできています。これまで医師は教科書や論文、学会などで知識をアップデートすることが一般的でしたが、今後の医療においては、医師はAIをどのように活用し診断や治療に役立てていくのかも学んでいく必要があると思われます。