10月に執刀した手術は、①白内障手術 64件、②白内障硝子体同時手術 14件、③硝子体単独手術 7件、でした。10月は裂孔原性網膜剥離の緊急手術が2件ありました。
さて先日、10数年前に虹彩支持型前房レンズ(フェイキックIOL)による屈折矯正手術を受け、徐々に視力が低下してきたとの主訴の方が受診されました。両眼とも写真のようなレンズが挿入されており、虹彩にレンズの爪が噛みこむような形で固定されていました。
視力は両眼とも矯正で(0.4)まで低下しており、角膜にはデスメ膜皺襞(しわ)が見られ、前房中には炎症が生じていました。また下図のように、黄斑部には炎症によるものと思われる黄斑浮腫も見られました。角膜内皮細胞密度検査では、内皮細胞の形状がいびつになっており、約1200個/mm2程度(正常は3000個/mm2)まで減少していました。
前房レンズに伴う角膜内皮減少と、黄斑浮腫を伴うぶどう膜炎であり、特に角膜内皮に関しては、前房レンズの摘出を行わないと今後水疱性角膜症となり失明に近い状態に至る可能性が極めて高い状態と思われました。
屈折矯正手術として有水晶体眼内レンズでは虹彩支持型前房レンズやICLがありますが、後房型レンズであるICLが普及してきてから前房レンズはほとんど見られなくなってきています。前房レンズは虹彩に爪のように噛みこんで固定するため炎症が生じるリスクが高く、また角膜内皮にも近いため角膜内皮障害のリスクもICLより高いレンズです。多くの症例では前房レンズでも問題なく経過しますが、角膜内皮減少やぶどう膜炎の原因となることもあり、手術後も定期的な経過観察が必要です。
この方はその後前房レンズ摘出ならびに白内障手術を行いましたが、虹彩固定部が強く噛みこんでいてなかなか外れず虹彩への侵襲が大きくなりました。またPMMA製の硬いレンズであったため切断ができず、創口も大きく開ける必要があり、眼への負担の大きな摘出手術となってしまいました。白内障手術で用いる眼内レンズは基本的には生涯入れたままを想定しているため、メーカーも摘出のことまで想定していないのですが、フェイキックIOL系は将来的に高齢になった際に白内障手術を行うことも想定しておく必要がありますので、摘出のことまで想定した設計にする必要があるのではないかと思われます(現在主流のICLは摘出が容易です)。